第60話 寝不足

翌日、完全に寝不足の状態で出勤し、あくびが止まらなかった。


休憩室に入ると、木村君が「眠そうだな」と笑いながら声をかけてきた。


けど、あそこまでプロジェクト参加を拒否していた木村君を前に『新OP作り直してました!』なんて言える訳もなく、「なかなか寝付けなくて…」と言ってごまかしていた。


更衣室で着替えていると、カーテンの向こうから「夜更かしして何してたん?」と言うユウゴ君の声。


「…メールですよ。旧友からメール来て、それで寝付けなくなっちゃって…」と言いながら着替えていると、ユウゴ君は「大磯か…」と小さな声で言っていた。


ついつい「違いますよ」と言ってしまい、「じゃあ誰?」と再度ユウゴ君が質問。


「みなさんの知らない人です」と言いながらカーテンを開け、逃げるように休憩室を後にした。


始業時間になり、作業をしていたんだけど、気持ちは『新OP編集』の方に行ってしまい、なかなか集中できなかった。


そのせいでミスを連発してしまい、何度も修正を命じられる羽目に。


木村君から「珍しいな」と少し呆れながら言われる始末。


そんな日々を繰り返し、待ちに待った週末の定時後、木村君から呼び出され、応接室で注意を受けてしまった。


謝ることしかできなかったんだけど、木村君はため息をつき「…男できた?」と聞いてきた。


「違いますよ?女の子です」と平然と答えると、「どういう関係で知り合った?」と…


「そこまで答える必要ありますか?」と聞くと、木村君は「ないな。個人的な質問」と言い、探るような目で私を見てきた。


「前職の子で…」と言いかけると、「白鳳、やばいことしてるのか?」と、眉間にしわを寄せて聞いてくる。


同じ業界の経営者だから、その辺の裏事情が欲しいのはわかる。


けど、白鳳の情報なんて何も持っていないし、持っているとしたら過去の因縁ぐらい。


「トップシークレットなのでお答えできません」と言うと、木村君から「だよな。夜はちゃんと寝るように。いいな?」と言われてしまい、小さく返事をした。


「あ、これから飯行かない?個人的な誘い」と言われたけど、けいこちゃんと約束しているし、急がないと待たせることになってしまう。


「すいません。これから約束があるので、お先に失礼します!」と言い、お辞儀をした後、応接室を後にした。


急いで着替え、事務所を飛び出し、駅まで走る。


『もっと急いで!!』と思いながら電車に揺られ、駅に付いた途端走り出す。


急いでけいこちゃんの家に行き、インターホンを鳴らすと、かおりさんがドアを開けた。


「あれ?かおりさん?」と聞くと、かおりさんは「かおりさんですよぉ」と言いながらにっこり笑い、中に入るよう促してきた。


「ったくあんたらはコソコソ面白そうなことして!私も混ぜなさいよ!」と言うと、けいこちゃんはすでに作業中。


徹夜して作った3D素材を見せると、けいこちゃんは「流石!眠そうな顔してるだけあるわ!」と言いながら喜んでいた。


けいこちゃんとパソコンを並べ、話しながら作業をする。


時々、かおりさんがアドバイスをくれたり、コンビニのおにぎりを口に押し込まれたり…


何もかもが懐かしいし、時間を忘れ、楽しく作業をしていた。


作業をしているときに、けいこちゃんが「ここのイラスト、しっくりいかないんだよねぇ」と言ってきた。


「3Dにする?」


「うーん… そこまでする必要はないかなぁ… 誰か書いてくれれば早いんだけど…」


けいこちゃんがそう言うと、かおりさんが「聞いてみたらいいじゃん。勇樹と大介に。同じプロジェクトに居たし、同じ気持ちなんじゃない?」とアドバイス。


けいこちゃんはすぐに電話をしたんだけど、勇樹君は寝ていたようで「明日にしてくれ」と言われてしまい、大介君は酔っ払ってお話にならないようだった。


「ここは後日にして次やっちゃおう」と言うと、けいこちゃんは「だね!」と言い、作業を続けた。


時間を忘れて作業を続け、眠さをごまかし続けているときに、少し考えこんでいた。


「ここどうしよう」と聞くと、けいこちゃんは眠そうな目をしながら「んー」と唸り、「そうだなぁ」と考えている。


その場で横になりながら考えようとすると、一瞬にして意識が飛び、気が付いたら翌日の朝。


本当はもっと作業を続けたいけど、明日は会社があるし、帰らなければならない。


後ろ髪を引かれる思いで、かおりさんに駅まで送ってもらい、電車の中で爆睡してしまった。


乗り過ごしては戻って乗り換え、乗り過ごしては戻って乗り換え…


気が付いたらあたりは夕暮れに染まっていた。




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