第52話 高価

木村君とユウゴ君、あゆみちゃんが妙なライバル心を滾らせる中、豆腐サラダを口に運んだ。


すると真由子ちゃんが「そう言えば、お豆腐ってイソフラボンが入ってるから胸が大きくなるんですよね!美香さん、もっと食べたほうが良いんじゃないですか?」と、グサッとくるような言葉を投げかけてきた。


するとあゆみちゃんが「美香っちはお前と違って栄養が脳に行ってるの!お前みたく胸で止まってねぇんだよ!」と言い、グラスを一口。


これに耐えかねたのか、浩平君が「てめぇ何言ってんだよ」と言ったんだけど、ユウゴ君が「あゆみ、お前…たまには良いこと言うな?」と、感心しながら言い、あゆみちゃんとガッチリ握手していた。


『何この親族… もう帰りたい…』


そう思いながら箸をおき、ウーロン茶を一口飲んだ。


けど、真由子ちゃんは食い下がることなく「でもでも、男性って大きい方が好きって言いません?ね?社長」と言い、背中に手を当てる。


木村君は手を払うように腕を上げ、無言で飲み物を飲んでいた。


この状況に見かねたのか、ケイスケ君が携帯を取り出し急いで操作。


「あ、このアニメOP知ってる?」と言いながら、私が手掛けたアニメのOPを見せてきた。


ユウゴ君は携帯の画面を見た後「美香が参加したプロジェクトで作った奴だろ?」と言い、ケイスケ君が歓喜の声を上げる。


「俺この原作めっちゃ好きでさぁ!」と興奮しながら言ってきたんだけど、真由子ちゃんは言葉を遮るように「私アニメとか見ないしぃ、OPでかっこいいとか、ちょっとわかんないんですよねぇ。たった数分でしょ?それなのに何か月もかけて作るとか、全然意味わかんないです」と言ってきた。


すると木村君が「それが分からないなら製作には向いていないし、やる価値はない。『編集教えろ』って何度も電話かけてきたけど、意味が分からないなら時間の無駄だ」と、淡々と伝えていた。


真由子ちゃんはそれでも食い下がらず「向上心の表れじゃないですか!」と言っていたんだけど、木村君は淡々と答えるだけ。


「意味の分からないものを作って何になる?そんなものを公表したって誰も何も感じないだろ?たった数分のものに、大勢の人間が必死に勉強して、工夫して、作り上げているのに、無意味なこととしか感じないなら、時間の無駄だ。やる価値は無い」


思わず聞き入ってしまうような説教に、すごく感心し、ちょっとだけ感動してしまった。


それと同時に、プロジェクトに参加していた時の事を思い出し、俯いたままちょっとだけ笑みがこぼれてしまった。


「美香っち?」とあゆみちゃんに呼ばれ、顔を上げると、視界がぼやけていた。


「あ、ごめん。ちょっと懐かしくなっちゃった」


「辛かったの?」


「ううん。逆だよ。みんなでスタジオに泊まり込んで、意見出し合って、怒号が飛び交ってたりしてたんだけど、すごく楽しかったんだよね。その時に、かおりさんがパティスリーKOKOの苺タルト買って来てくれたんだけど、値段聞いてびっくりしちゃった!」


「あれ超高くない?1個2000円近いでしょ?ケーキ1個にあれは手が出ないよね」と、あゆみちゃんが言うと、浩平君が「そんなにするの!?」と声を上げた。


「はい。1個1800円だったかな?予約限定のケーキセットだと3500円だったような…あ、かおりさんが言ってたんですけど、店の近くに有人パーキングがあって、そこに車止めたら10分で2000円取られたって騒いでましたよ?」


その話をすると、真由子ちゃんと浩平君以外は「うわぁ…」と声を上げていたんだけど、浩平君の顔は見る見るうちに青くなっていた。


するとユウゴ君が「美香、今度連れてけ。お前のおごりで」と…


「嫌です。高すぎます!副社長なんだから、たまには可愛い従業員におごってもいいんじゃないですか?」


「うちに可愛い従業員なんていねぇよ。大体、MVPもらったんだろ?いつもお世話になっている上司に感謝の気持ちはないのかね?」


「その結果プリンじゃないですか!しかも3つも食べたんでしょ?」


そのままユウゴ君と言い合いをしていたんだけど、浩平君は青い顔のままトイレに行き、しばらく戻って来ず。


真由子ちゃんは木村君にべたべたし、これでもか!ってくらい拒絶されていた。

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