第42話 お邪魔
差し入れをした日の夜。
家で木村君からの連絡を待っていた。
定時はとっくに過ぎているのに、19時を過ぎても連絡が来ない。
すると20時近くに『ごめん。遅くなった。今家の前にいるから出てきて』とのメール。
すぐに家を飛び出すと、木村君はスーツ姿のままだった。
「何かトラブルですか?」と聞くと、木村君は「うん。まぁね」と言葉を濁すばかり。
詳しいことを聞けないまま歩き出し、木村君の案内で小さなイタリアンレストランへ。
「リゾットなら食える?」と聞かれ「もう何でも食べられますよ。揚げ物類はきついけど」と答えると、木村君は「相当回復したな」と、嬉しそうに言っていた。
二人で向かい合い、話しながら食事を取る姿は、傍から見ると恋人同士に見えるだろう。
『昔付き合ってたとしたら、こんな風に食事を取ってたのかな? 高校生だったから、ファストフードとか食べてたのかな? 今なら過去を教えてくれるかも』
食事を取りながら、そんな思いがふと頭の中をよぎった。
「副社長とは高校から一緒だったんですか?」と聞くと、「いや、ずっと一緒だよ。幼馴染。ケイスケは中学からだけどね。浩平が高校から」と普通に答えてくれる。
『これはイケるかも?』と思い、「幼馴染で仲がいいってことは、いつも一緒にいたんですか?」と少しだけ踏み込んだ質問をすると、「まぁね。腐れ縁ってやつもあるだろうけど、あいつといると面白いんだよ」と、普通に答えてくれた。
「じゃあ高校の時に…」と言いかけると、「これ以上は言わないよ。前に言っただろ?」と、何かを含ませるような答えが返ってきた。
『泊まらせてくれたらって事かぁ。一筋縄ではいかなそうだな』と思い、質問を辞める。
木村君はクスっと笑い「俺どんなに酒飲んでも覚えてるから、それだけは覚えておいて」とだけ言っていた。
食事を終え、店を出ると、冷たい風が吹きつける。
思わず「寒っ」と言いながら目元までマフラーを上げると、木村君は「怪しいな。誰だかわかんないんじゃねぇの」と言いながら笑っていた。
肩を並べながら歩き、話しながら家まで送ってもらうと、木村君は「また明日な」と言ってゆっくりと歩きだした。
家に入った後、唇に触れながら『今日はなかったな… マフラーで隠してたからかな…』そう思いながらシャワーを浴びた。
翌日。
あゆみちゃんが休みで真由子ちゃんが出勤の日だったんだけど、浩平君は朝から珍しくデスクに座り、真由子ちゃんとイチャイチャしながら入力作業をしていた。
ついこの間まで、「うるせぇよ」と言っていたのが嘘のように、二人で喋り捲る。
しびれを切らせた木村君が「ちょっと静かにしてもらえるか?」と言うと、浩平君は「怒られちゃったね」と小声で言いながらクスクス笑っていた。
しばらく作業をしていると、木村君が「美香悪い、これ3Dにしてもらえるか?」と聞いてきた。
「3面図ありますか?」
「今送る」と木村君が言うと、ユウゴ君が「あ、それ俺やる。不安だから、美香はデモリングチェック頼む」と。
『バカはバカなりに頑張ってるんだ』と思いながら「承知しました」と返事をする。
普段と変わりない会話だったんだけど、真由子ちゃんは「かっこいい!」と騒ぎ始めた。
『いいから仕事しろ』と思いながら、ヘッドフォンを着けて作業を続けていると、お昼休みの時間に。
どうしても切りが悪く、なかなかお昼に行けなかったんだけど、浩平君と真由子ちゃんは二人揃って休憩室へ。
木村君が「ケイスケ、先行ってくれ」と言ったんだけど、ケイスケ君は「あー、後ででいいや」と苦い顔をしながら言っていた。
少しだけ作業をし、作業に区切りがついたのでふーっと息を吐く。
するとケイスケ君が「美香ちゃん、お昼行こう」と言ってきた。
『なんか話でもあるのかな?』と思いながら、ケイスケ君と休憩室に入ると、浩平君と真由子ちゃんは、ソファに並んで座り、イチャイチャしながら話していた。
『完全に邪魔者だ…』と思いながら、向かいに座ってお昼を食べていると、浩平君が「そういえば昨日、美香ちゃんが差し入れくれてさぁ」となぜか得意げになって話始めた。
浩平君はソファにふんぞり返り「パティスリーKOKOって知ってる?あそこの苺タルト買ってきてくれてさぁ 美味かったぁ」と真由子ちゃんに言い、真由子ちゃんは「本当ですか!?あのお店、よく雑誌に載ってますよね!食べたかったぁ!」と甘える声。
浩平君は「あそこイートインもできるから今度行こうよ」と誘い、真由子ちゃんは「行きたいです!」と、目を輝かせていた。
『何言ってるの? 確かに店名はあっているけど、苺タルトなんか買ってないし、1個1800円のタルトを人数分買う余裕はありません。 ってか、浩平君食べずに帰ったよね?』
素朴な疑問を抱きながら、お昼を食べ続けていると、ユウゴ君が休憩室に入り「お前ら時間過ぎてんぞ」と、二人を追い出していた。
二人が出た後、ケイスケ君が「美香ちゃんごめん。道連れにした」と。
「いえ、大丈夫なんですかね?あの二人」と言うと、ユウゴ君は「普通にダメだろ」とだけ言っていた。
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