第25話 変化

連休明け初日。


会社に行くと、事務所の中が大きく変わっていた。


今まで曇りガラスのスライドドアだったのが、木製の開き戸に変わり、入ってすぐの場所には小さな応接室。


作業場自体が狭くなった分、少し窮屈に感じていた。


『別の会社みたい…』


そう思いながら、自分の使っていたパソコンの置いてあるデスクに行くと、休憩室からユウゴ君が出てきた。


「おはよ~。相変わらず早いね」と言いながら、私の隣の席に座る。


「席替えはしないんですか?」と聞くと、「えー、やだ。俺この席気に入ってるもん」と、なぜかドヤ顔で言っていた。


「左様でございますか」と言いながら、荷物を置きに休憩室に入ると、目の前には3人掛けのソファが向かい合って並べられ、間にはガラス製のテーブル。


その奥にロッカーがあり、入口はカーテンで仕切られ、その隣には資料棚が並んでいた。


『カーテンは変えないんだ…』


そう思いながら奥に行こうとすると、ソファの後ろにある通路がすごく狭い。


『ソファを1個にすればもっと広くなるし、通りやすくなるんじゃないの?』


そう思いながらロッカーに荷物を置き、自分のデスクに戻ると、私のデスクに木村君が座り、ユウゴ君と話をしていた。


『あれ?デスク間違えた?』と思うと、木村君は挨拶もそこそこに「今日から内勤の女性従業員は制服だって」と言い、制服を手渡してきた。


思わず「えー… やだぁ…」と小声で言ってしまうと、ユウゴ君は少し驚いたような表情をしていた。


「なんですか?」


「え?あ、いやさ、いつも丁寧な感じだったじゃん?『申し訳ありません』とか、『お恥ずかしい』とか『お代官様』とか」


「最後のは言ってません!」


「え?そうだっけ?おっかしいなぁ…この前言ってたような気がするんだけどなぁ…」


『この人と話してると、何の話してるかわかんなくなる…』


渋々制服を手に取り、更衣室で着替えてみるも、サイズが大きくてブカブカの状態。


『これは無理だなぁ。 もしや私服チャンス到来?』


急いで私服に着替え、制服を持って木村君のもとへ行き、「サイズが大きすぎます」と言うと、ユウゴ君が「ああ、チビだもんなぁ。160ないでしょ?」と…


『もしかして、今日絡まれる日?』


そんなことを思いながら、ユウゴ君をスルーしていると、木村君が「今、それしかないから着て。発注しとく」と、悲しい言葉を投げかけてきた。


仕方なく更衣室に戻り、制服に着替える。


『スカートもワイシャツもでかいのに…』と不満に思いながら着替え、スカートは私服についていたベルトで固定。


ため息をつきながら自分のデスクに戻ると、ユウゴ君が「お姉ちゃんのお古着てきたん?」と…


黙ったままヘッドフォンを着け、パソコンを起動。


ユウゴ君の「え?シカト?シカトなの?」の声も気にせず、動画配信サイトで好きな海外バンドのPVをつける。


すると、今度は「え?これ誰?ねぇねぇ、この髭の汚いおっさんたち誰?」と本当にしつこい!


あまりにも頭に来たので「うっさいなぁ!誰でもいいでしょ!!」と言うと、ユウゴ君は「その調子その調子」と、ニカっと笑いながら言ってきた。


が、「大体いつも堅苦しすぎんだよ。こんな小さい会社で『左様でございます』なんて言ってんじゃねぇっつーの!お前は武者か!聞いてる方が頭痛くなるわ!作業が速いのはありがたいよ?けど~~~~~」となぜか説教開始。


『なんで怒られてんの?っていうか、今日のテンションおかしくない?さっきまで普通だったよね?この変わりよう、変なもの食べたのかな?』


疑問に思いながらも、始業時間ギリギリまで謎の説教を受けていた。


仕事中は普通なんだけど、休憩時間が被ると弄る弄る…


そのおかげで作業がずれ込んでしまい、1時間ほど遅い昼食をとっていると、木村君とユウゴ君が休憩室に入り、資料を見ながら打ち合わせ開始。


その横でお昼ごはんの卵サンドを食べていると、突然ユウゴ君は「んなもん食ってるからでっかくなんねぇんだろ!肉食え肉!」と、一人で大騒ぎ。


「肉はまだ無理なんです!」と反論すると、「な?言ったろ?肉まだ無理なんだよ」と、落ち着いたトーンで木村君に向かい、話し始めていた。


『本当は大丈夫だけど…』と思っていたけど、それを言うとまた長くなりそうなので、黙っていることにした。

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