第62話 暮葉と配下の六人狐

 普段はあまり表に出てくることはないが、実はボクには酒呑童子たちや雫ちゃんたちのほかに仲がいい子がいる。

 もちろんVの子も仲は良いけど、今回はそれ以外の子の話だ。


「暮葉様。髪のお手入れのお時間です」

「あ、はい。お願いします」

「じゃあ私は尻尾のお手入れを」

「うえぇ?! お、お願いします……」


 人間界の家ではすべて自分でやることにしているものの、こちら妖精郷の家では基本的にお世話される側になってしまう。

 特にボクの配下的な扱いになっている六人の妖狐族の女の子たちによりお世話されることが多い気がする。


 六人の毛の色はそれぞれ、黒や金色、茶色やピンクに赤や白色の六色となっていて、ボクより少し年上もいれば年下もいる。背格好も高かったり低かったりとそれぞれなんだけど、近い年齢なのになぜかボクくらいじゃなくてボクよりも胸が大きい子が二人もいる。

 なぜだ。


「暮葉様。そんなに胸が気になりますか?」

 ボクが見ていたことに気付いたのか、一人の子がそんなことを聞いてきた。


「う~ん。年齢近いはずなのに、なんでかな~と思って」

 これはボクが常々思っている疑問だ。

 ちなみに、弥生姉様はボクよりも大きい。

 三歳違いなのにだ……。


「個体差……というか個人差でしょうか。あまり気にすることではないのでは?」

 そんなことを言うのは黒髪の狐娘の『夕月藍(ゆづきらん)』さんだ。

 先ほど言った配下的な存在のうちの一人で暫定的にリーダーをしている。

 クールな見た目の美人さんで、男性人気が高い。


「う~ん。そんなものなのかなぁ。藍さんも大きいよね。ボクと同い年なはずなんだけどなぁ」

 今日は酒呑童子たちも来ていないため、基本的に藍さんたちが相手となる。

ちなみに雫ちゃんたちはというと、今はお母様にお使いを頼まれていて不在である。


「暮葉様の髪は手触りがとても良いですね。傷んでいる毛もありません」

「この尻尾はずっと撫でていられますね」

「ちょ、尻尾はダメだって!?」

 今ボクの尻尾を撫でているのは『古見梨雛(こみなしひな)』さんだ。

 きれいな金髪のロングヘアが特徴的で、見た目は完全に深層の令嬢といった姿をしている。

 ちなみに、男性にモテる様子ことでも有名なのだが、妖狐族ゆえまだ付き合うはできない。

 残念だったね、男性諸君!


「暮葉様、くすぐったいからってもぞもぞしてはだめですよ」

 雛さんはボクのしっぽを撫でて弄びながらブラッシングをしているのだが、その手つきが妙なので非常に困ってしまう。

 尻尾は神経も通っている敏感な部分なのでくすぐったさと同時に触られるとゾクゾクするという難点がある。

 便利だし抱き枕代わりになっていいんだけど、そういうところは困りどころだったりする。


「そうは言ったって~……」

 普通にやればいいと思うのに、なぞるように触ってから指を動かして小刻みに触るのはやめてほしい。


「雛さん、その辺にしてちゃんとしてください」

 見かねたのか藍さんが雛さんに注意してきた。


「はぁ~い。せっかく楽しくなってきたところだったのにぃ~……」

「はぁ、雛さんは相変わらずですね。成人するまでは我慢するでしょうけど、その後どうなることやら」

「藍、私はそんなんじゃありませんよ~? 小さくてかわいいものが大好きなだけです」


「それはいいですけど、やりすぎると天津様から外されるかもしれませんよ?」

「それはちょっと……。でも、暮葉様の困惑顔見てみたくないですか?」

「うっ……。それはありかもしれませんけど……」 


「みんな何の話をしてるの~?」

「佑香さん? お掃除のほうは終わったんですか?」

「うん~、こっちはもう終わったよ~。いやさ、さすがにメイドさんがいつもやってるせいかゴミはほとんどなかったよ。せいぜい抜け毛くらいかな?」

「そう。ならいいんですけど。それよりも雛さんをどうにかしてください」

「え? 雛ちゃん?」


「なんですか。私はまじめにやってますよ?」

 しれっとまじめにやっているアピールをする雛さん。


 ちなみに佑香ちゃんは見た目が小さく大変かわいらしい姿をしている。

 前に身長を聞いたときは152センチといっていた。

 ちなみに年齢はボクより一つ年上の十九歳だ。


「でも思うんだけど、メイドさんもいるのにボクの世話焼きにくる必要ないよね? 普段そんなに見かけるわけでもないのに」

 普段のボクは酒呑童子たちと一緒なので、藍さんたちと一緒にいる機会はほとんどない。

 みんな同じ学園の高校や大学に通っているのもあって、近くにいることはいるんだけど距離自体は離れてしまっている。


「酒呑童子さんたちがいない時は私たちの出番ですから。たまに家で潰れて寝てるときとかあるでしょう?」

「あー……。うん。たしかに」

 藍さんの指摘通り、時々飲みすぎて寝ているときがある。

 本当はいけないんだよって毎回言ってるんだけど、転生体だから問題ないの一点張りだ……。

 そんなわけないのにね。


「そういえばほかのみんなは?」

 ボクはここにいないほかの三人について尋ねる。


「えっと、あずささんと亜希さんと乃愛さんは買い出しに行っていますね」

「ん~? 何を買いに行ってるの?」

 三人が一緒に買い物に行くというシチュエーションはあまり知らないので、ボクはすごく気になった。

 

 あずささんこと『片月あずさ(かたつきあずさ)』さんは現在大学生で、六人組では一番のお姉さんだ。

 茶色い毛色が特徴で優しめの母性溢れるお姉さんだ。


 亜希さんこと『降谷亜希(ふるやあき)』さんは小麦色の肌と赤い毛色が特徴的な活動的な女性だ。

 ちなみにボクと同い年で、男女ともに人気がある。

 あずささんと比べるとバストサイズに大きな差があるという特徴もある。


 乃愛さんこと『藍屋乃愛』さんはボクより年下の全体的に白い女の子だ。

 毛色も白いけど肌も白い。瞳の色はなぜか金色に見えるため、人間離れして見えることだろう。

 まぁ、人間界にいるときは少し地味な見た目になるんだけどね。

 身長はボクに近いのにバストサイズはボクよりもあるため、油断できない年下である。


 ちなみに佑香さんは『狐宮佑香』という名前だ。

 これがボクの配下的な扱いの六人の妖狐族の女の子たちだ。


「はい。今度の課外活動で使う物品の購入ですね。学外なのでいつもの六人組で行こうという話になりまして」

「へぇ~。乃愛さんはあの組み合わせだとあずささんくらいしか拠り所ないんじゃないの?」

 乃愛さんは儚げな見た目通り、極度の人見知りだ。

 活発な亜希さんとだと委縮してしまう可能性がある。


「これでも最近は慣れて来たんですよ? まぁ乃愛さんは暮葉様や御津様と一緒にいるほうが落ち着くようですが」

「同じようなのばっかり集まってるからね……」

 ボクと御津と乃愛さんの三人が集まれば、誰も外には出ていかない人見知り組が出来上がることだろう。

 教室とか部屋の隅っこを占領することだけには長けているかもしれない。


「えいっ」

「ひゃんっ?! な、なに?!」

 突然尻尾を強く握られたので思わず変な声が出てしまった。

 一体何が……。


「暮葉様、私のことを忘れてませんか?」

 そういわれたので振り向いてみると、膨れた顔をした雛さんがいた。

 狐耳金髪美少女お嬢様の膨れ顔は見てて癒されるものがある。

 いささか属性盛りすぎな気もするけど……。


「大丈夫、忘れてないよ。それよりもどうしたの?」

「いいえ~、なんだか藍さんとばっかり話してるから」

「あ、ごめんごめん。そういえば佑香さん静かだね?」

 ふと見ると、佑香さんは何やらパソコンをいじっていた。


「あ、暮葉様。ちょっとパソコン借りてるよ~? 観たい動画があって」

「うん、いいよ。でもアカウント変えないでコメントはしちゃだめだからね」

「は~い」

「じゃあ耳のお手入れしますね」

「じゃあ私はまた尻尾を~」

「いや、もうよくない? ずっといじられてるからそろそろ痛みそうなんだけど」

「あはは。手触りが良くてつい」

「尻尾の感触癖になります」

「君たちの尻尾をモフらせてもらおうか」

「えっと、その、優しくしていただければ……」

「私は激しめでも大丈夫ですよ~?」

「えぇ……」

 

 そんなこんなで買い出しに行った三人が戻るまで続くのであった。

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