第61話 小悪魔兎の妖精郷訪問計画その2

 しばらく様子を見ていると、お店の中からちっちゃい狐娘が出てきた。暮葉ちゃんだ。

 見た目は幼い小学生のように見える。身長は小さくて頭も手も足も全部が小さい。ぴょこんと出ている耳やしっぽは体より少し大きめに見える。この辺りはさっきセフィシスちゃんから聞いていた通りだった。


「あれ? セフィに~……どこかで見たことのあるウサギの子だ。誰だっけ?」

 暮葉ちゃんがきょとんとした顔をしながら私のほうを見てくる。

 小首を傾げる動作が実にかわいらしい。


「稲葉だよ~! 雪村稲葉!」

 私はたまらず名前を教えた。たぶんあの表情では絶対思い浮かばないだろう。まぁ直接面識があるわけじゃないので、最悪知らないということもありえたけどそれは皆無だということは事前に聞いていたから問題ないと思う。


「あ、そうそう。稲葉ちゃんだ。あれ? そんな稲葉ちゃんがなんでここに? というか、なんでボクの名前知ってるの?」

 どうやらドッキリは成功したようだ。私は内心ほくそ笑んだ。


 今回の目的はいくつかある。そのうちの一つが友達になること。そしてドッキリを仕掛けることだ。その目的の一つは達せられた。なぜなら突然の私の登場に、未だにきょとんとした表情を浮かべてるいるからだ。


「わお。まさかあっちから来れるなんて思わなかったよ。あ、でももそっか。行けるなら来れるよね」

 少しすると、暮葉ちゃんは普通の顔に戻り何やら考え納得したように頷いていた。まぁ細かいことを気にしても仕方ないし。


「はい。条件はありますが来ることは可能です。それはそうと暮葉様? せっかくなので稲葉さんと仲良くなってみてはどうでしょうか」

「ん? 仲良く……? それは嬉しいけど、またなんで?」

 セフィシスちゃんの言葉に暮葉ちゃんは首を傾げた。


「ふーっふーっふーっ! ここは私、雪村稲葉が説明しちゃおうじゃない!」

 ここぞとばかりにでしゃばる私。こうでもしないと私抜きで話が進行しそうだったのでアピールするためにも前に出る。

 まぁ時々嫌われたりするんだけど、私はめげない!


「あ、うん。お願いします」

「ちょっと、なんでそこで引いちゃうの!?」

 ちょっと勢いがつきすぎたかな? 若干後ろに引かれてしまった。


「暮葉様は根が臆病なので、人よりパーソナルスペースに敏感なんですよ」

 なにそれかわいい。

 ちなみに私は踏み込まれるより踏み込むほうが多いので、あまり気にしたことがなかったりする。

 でも、同族はこんな感じだったような?


「こほん。では気を取り直して。まず私はですね!」

「あ、はい」

「実は私、かわいい女の子に目がないんです!」

「えっ?」

「ちょっと待ってください稲葉さん。それ、今言うことじゃないですよね?」

「あれ?」

 どうやら言葉選びを間違えたらしい。結論から言って次に説明しようと思ってたんだけどなぁ……。


「えっと、補足します。稲葉さんがかわいい女の子に目がないというのは事実ですが、元々は宗親様の妹語りが原因で興味をもったんです」

「そうそれ」

「はぁ……。宗親兄様は何をやってるんだろう……」

 セフィシスちゃんの的確な補足説明により、なんとか暮葉ちゃんの理解を得られたようだった。

 いやぁ、セーフセーフ。


「つまり、ボクのことを聞いたからボクに興味をもったと? それはいいんだけど、それよりもセフィが手に持ってるカメラが気になる」

「あ、これですか? 今はちょっと止めてますけど仲良くなれそうだったら撮影することになっているんです。もちろん宗親様もご覧になりますよ?」

「へ? い、いきなりすぎない?! いや、撮るのはいいけど突然すぎてなにも用意してないし……」

「そのままで大丈夫です。帰りながらお話しつつ撮影程度で十分ですから」

「そ、そうなの?!」

 どうやら暮葉ちゃんは撮られることについては苦手意識はない様子。どうせならあとでくっついたところをセフィシスちゃんに撮影してもらおうかなぁ。


「ところで暮葉ちゃんは何を買ったの?」

 私は暮葉ちゃんの手提げ袋の中身が気になって仕方なかった。


「んと、お茶とポテトチップスと野菜チップスと豚まん」

「豚まん?!」

「え? へ、変かな?」

「ううん。大好き! あ、間違えた。いいと思う!!」

「???」

 あぶないあぶない。危うく本音が出ちゃうところだった。

 クールで元気なウサギである私は簡単に表情に出してはいけないのだ。

「稲葉さんっていたずらするときと好きなものを見るときはよく表情に出ますよね」

「?!」

 台無しである。


「は~い、みんな~? 今日はついに合流できた噂のかわいい子、夕霧暮葉ちゃんを紹介しちゃいま~す! そして新しい私の友達でもあります! よろ!」

「よ、よろ……しく……」

「あれあれ~? 声が小さいよ~?」

「うぅ。いじわる……」

「ごめんごめん。はいぎゅ~」

「むぎゅ」

 緊張しちゃったのかしどろもどろになってしまった暮葉ちゃんを慰めつつどさくさ紛れに抱きしめる。

 うん、抱き心地いいわ~。


「こほん。稲葉さん、続き続き」

「はっ?! さて、暮葉ちゃん? もう大丈夫かな~?」

「う、うん。その、ありがとう」

「いいってことよ!」

 時々虐めてるように見えてしまうのは私の悪いところかもしれない。ものすっごく親しみと愛情を込めてるのになぁ。


「というわけで、今日は暮葉ちゃんとセフィシスちゃんと一緒に、時々ゲストを交えながら進行していくよ~!」

 そう言って私は暮葉ちゃんのほうを見た。

 いない。

「あれ? 暮葉ちゃん?」

 きょろきょろあたりを見回すと、少し離れた場所で暮葉ちゃんが狐耳の幼女に襲われていた。

 間違えた。抱きつかれていた。


「暮葉ちゃん、その子だれ?」

「あ、ごめん。前にいった幼稚園の子なんだけど、なんか寄ってきた」

「暮葉ちゃ~ん。もふもふ~」

 謎の幼女は暮葉ちゃんの胸元に顔を埋めてすりすりしていた。

 いつの間にやってきたんだろう?


「ふむふむ。これはこれでチャンスなハプニングだよ! ほらほらみんな~、新鮮な狐耳幼女だよ~。大好きでしょ?」

 あとで許可は取るとして、これは思いがけないいい絵かもしれない。

「もうほら。このままだとカメラに映っちゃうよ? 顔映されてもいいの?」

「んふ~。ん~? いいよ~? ぶい」

 暮葉ちゃんが頑張って引きはがそうとするものの、狐耳の幼女はくっついたまま離れない。それどころか抱きついたままこっちに顔を向けてピースサインまでする始末。

「この幼女、強い!」

 私は素直にそう思った。


「セフィシスちゃん。暮葉ちゃんは何でこんなに懐かれてるの?」

 私は素朴な疑問を口にした。

「ご家族の御津様もそうなんですが、幼稚園ではやたら人気がありまして。理由は不明です。まぁ、上位の妖狐なので引き寄せられている可能性はありますね」

 セフィシスちゃんはそう説明してくれた。

 ふむ。何やら引き寄せてしまうということですか。

 そ・れ・よ・り・も!


「その御津ちゃんってのはかわいいの?!」

 聞くべきところはここでしょう!

「えっと、はい。暮葉様そっくりですよ? あと色違いといいますか」


 これはいいことを聞いたかもしれない。


「今度会わせて!」

「え? あ、はい。今日はいませんが、いるときであれば大丈夫かと」

「よろしくね!!」


 もう一人可愛い女の子が見られるのに見逃す手はないよね?!

 カメラを回したまま私はそんなことを考えるのだった。

 でも、これはこれで私らしい放送かも!!


 こうして、私たちは話をしたり遊びながら撮影を続けるのだった。


 う~ん。こっちの世界もかわいい子が多すぎる!!

 困っちゃうな~。

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