第42話 季節外れのプール配信②

 杏ちゃんが来るまでの間にやっておくべきことがいくつかある。

 まずは水着のお披露目。

 それから御津の紹介だ。

 とりあえず御津には自由に自己紹介してほしいので、どんな風にしたらいいかは特に伝えていない。

 ボクの初投稿時もそんな感じだったのでどんな紹介になるかすごく楽しみだ。

 それに、紹介動画は別に作ってアップロードすればいいので、今詳しいことをやる必要はないと思う。

「さて、それじゃあいくよ。今からボクたちは凛音姉様、ボクこと狐白、そして御津こと雛ね」

「まかせて」

「うぅ……。がんばる」


「みんなやっほ~。真白狐白だよ~」

「みんなこんばんわ。真白凛音よ」

「そして~、ボクたちの姉妹の~」

「真白雛……です」

 おどおどしながら自分の名前を言う新しい女の子にコメント欄は大いに盛り上がった。

『うおっ、狐白ちゃんの2Pカラー!?』

『でも狐白ちゃんと違って大人しい感じがなんかめっちゃいい』

『ていうか全員水着!! 超似合う』

『新しい子もデビューと同時に水着公開とか、すげぇ』

『それぞれがそれっぽい水着着てるのってなんか良い』

『解釈一致』

『雛ちゃんすき』

「あはは。ちょっと恥ずかしいですけど、夏にはできなかったことができたかなぁ。ボクたちの水着姿に関する感想もありがとね」

「はずかしい……です」

「雛ちゃんったらすっごく照れちゃって」

 コメントに反応したのか、それとも水着を見られることが恥ずかしいのかは分からないけど、御津はずっともじもじしている。

 これだけでもみんなには受けがいいようで、早くもファンが付いた感じだ。

「それじゃあまずは雛の紹介からね」

「えっと、はい。真白雛です。一応十八歳。狐白とは姉妹で、双子ではないですけど瓜二つ……です。サイズ感とか、全部同じなので服の取り換えっこもできます。以上……でいい?」

「うん、雛よく頑張りました。偉い偉い」

「あふっ」

「雛ちゃん偉いわね。あとでたくさん褒めてあげるわね」

「あ、ありがとう……」

『うおおお、雛ちゃあああん』

『めっちゃくちゃかわいい!!』

『声も好き、見た目も好き、性格も好き』

『狐白ちゃんと絡むところが見たい!!』

『これから狐白ちゃんと一緒に推していきます!!』

 やっぱり御津みたいな小動物系女子は人気があるのかもしれない。

 ボクは少しやんちゃなところがあるので御津みたいにはできない。

「ふふ、でも昔の狐白ちゃんも雛ちゃんと同じ感じだったのよ?」

「ちょっ、凛音姉様!?」

「懐かしいです。あの時はお人形さんみたいな感じでした」

「そうね~。お澄まししたぼんやり系狐耳美少女フィギュアってところかしら」

 楽しそうにボクの昔話を暴露していく二人にボクは内心困惑状態。コメント欄はそんなことは知らないので『マジで!?』といった感じに盛り上がっている。

「そもそもですけど、ボクたちの物心がつくタイミングって結構遅いほうじゃないですか?」

 妖種あるあるな話を二人に振ってみる。

 しかし――。

「狐白ちゃんは七歳くらいまで意思らしい意思がなかったから特別じゃない?」

「普通の妖種でも狐白よりもっと早くいろいろ学びます。妖種幼稚園でもそうだったでしょう?」

「あれっ!?」

 なんだか二人の目が可哀そうな子を見る目になっている気がする。

「えっと、ボク、そんなに遅かった? 五歳くらいだと記憶してたんだけど……」

 ボクがそう言うと二人はゆっくりと首を横に振った。マジですか。

 当然のことながら、ボクの過去暴露話は盛り上がってしまう。そしてボクにとっては黒歴史となった。

 

「はい、次は話題は今回の水着のことです。まぁボクは水着を着る機会がほとんどない気がするから、今回がほぼ初めて? なんじゃないかな」

「そうね~。狐白ちゃんも雛ちゃんも泳ぐための水着を着たことはないわね。温泉で着るものとかはあったくらいかしら」

「なんだか落ち着かない……です。皆こんなに心もとない服で泳いだり歩いたりしてるの……?」

 御津はもじもじしながら恥ずかしそうにそう言った。その姿はめちゃくちゃ可愛く見えた。

「あ、今更ですけど、今日の配信は3Dモデルになってますよ。だからこの通り、後ろもしっかりと見えちゃうんです」

 過去の水着経験の話ついでに、今回の配信に使っている素体の説明を少し挟む。それからどうだと言わんばかりにくるくる回りながら背中やお尻の方をみんなに見せた。

『はい、スクショ撮った』

『尻尾穴エロいよ!!』

『うわぁ、可愛いお尻だわ』

『背中とかしっかりできてるのか。てか後ろの髪見たの初めてだわ』

 今回、初めて後ろ姿を見せたせいかコメント欄は結構な盛り上がりを見せていた。

 ついでに今回初めて解禁したスパチャシステムによる投げ銭がいくつも飛んでくる。

「あわわわわ。姉様、これどうすればいいの!?」

「あらあら、狐白ちゃん大人気ね。今回やってみたら? って提案してよかったわ~。一人ずつ読み上げてもいいしまとめてお礼を言っても良いわよ」

「えっとえっと、それじゃあ――」

 ボクは一人ずつ名前を言い、お礼を言っていった。


「じゃあ次は凛音姉様ね」

「は~い。じゃあ行きますよ。今回は新しい水着なんです」

 弥生姉様はそう言うと、胸元に両腕を当てたままゆっくりと一回転した。ボクとお揃いの水着を着ている弥生姉様だけど、その姿は艶やかというか妖艶というか、とにかく大変美しいと感じさせるものだった。我が姉恐るべし。

「うふふ。今回の水着は、狐白ちゃんと同じ水着なんだけど、私はパーカータイプじゃなくてTシャツタイプを選んだの。今回はTシャツは着ていないけどね」

『うおおお、凛音お姉様! 一生ついていきます!!』

『ありがたやありがたや』

『 女 神 降 臨 』

『スクショが捗る。やばい』

『今日の放送、最高や』

 弥生姉様はやっぱりすごい。

 元々弥生姉様にはたくさんのファンがいたけれど、最近はボクと一緒にいることが多く放送もセットになっているため、弥生姉様のファンもボクのチャンネルに顔を出すようになったのだ。今回視聴者数がえげつないことになっているのには、そういう理由もあった。


「えっと。次、わたし……。うぅ……」

「雛ファイト」

「雛ちゃんがんばって」

 御津は恥ずかしそうにうつむくと、しばらくしてから意を決して回転し始めた。

 その姿はとても萌えるもので、多くの視聴者が打ちのめされていってしまった。

 御津可愛いよ!!

「うぅ……。おしまい……です」

『感動した!!』

『今日のMVPは君だ!!』

『スカート付きワンピースの威力やっば』

『これはセンシティブ』

『今日から推しの一人にします!!』

『ええ日や』

『ありがたやありがたや』

 コメントが流れるたびに御津は恥ずかしそうにうつむいてしまった。そのまま小さくなって消えてしまいそうなほどに。

「雛ちゃん可愛かったわ」

「雛めっちゃかわいかったあああ」

「あうううう」

 放送中にも関わらず、ボクは御津に思わず抱き着いてしまった。

『姉妹百合キター』

『もっと、もっとだ』

『ちょうど切らしてたんだわ』

 百合ではないのでは? と思いはしたものの、コメント欄は賑やかだったのでボクはそのままスル―することにした。今はとにかく御津を可愛がることに専念したい所存だ。


 一頻抱きしめ撫でまわした後、ボクは何事もなかったかのように放送に集中することにした。それと同時に、杏ちゃんからメッセージが入る。

「あ、みんなにお知らせで~す。さっきまでコメント欄にいた小毬ちゃんですが、急遽今日の放送に参加することになりました~。もうすぐ来るので、楽しみにしていてくださいね~」

『まじで!?』

『こんこまするん!?』

『小毬ちゃん、耐えきれずに飛び入りしちゃったか』

『だからあれほど小毬ちゃんを解き放つなと言ったのに』

『すべてが百合になる』

 杏ちゃんが合流し、子狐小毬として飛び入り参加することを伝えた途端にコメント欄は物騒になってしまった。

「あはは……」

 さて、どうなるかはわからないけど、着替えてくる杏ちゃんを楽しみに待ちましょうか。

 どんな水着にしたんだろう?

 

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