第43話 季節外れのプール配信③

 ボクが小毬ちゃんの登場を告知しえから少し後、放送ブース内に入ってきた杏ちゃんはボクに問答無用で抱き着いてきた

「こ~は~く~ちゃあああああああん!!」

 嬉しいと言わんばかりにボクの薄目の胸に顔を埋めてすりすりしつつ、その尻尾をぶんぶんと振る。

『最近の3Dすげー! こんな動き出来るのか』

『狐白ちゃんに抱き着いてすりすりする小毬ちゃんが見られたので高評価推していきますね~』

『間違えました。高評価押していきますね~』

『だからあれほど小毬ちゃんに狐白ちゃんを与えてはいけないとあれほど』

『てか、小毬ちゃんの水着狐白ちゃんとお揃い?』

 などなど、ボクと杏ちゃんの様子を見た視聴者のみんながコメントしている。

「えっと、とりあえず、特別ゲストの子狐小毬ちゃんで~す」

「お兄ちゃんたちお姉ちゃんたち、こんこま~!! 小毬だよ~」

『こんこま~!!』

 視聴者さんが一体になったかのように、小毬ちゃんの挨拶に返事を返した。

 うちの視聴者さんたちもよく訓練されているようで何よりです。

「なんか視聴者さんたちもよく訓練されてるよね」

「うん! よく訓練されたお兄ちゃんたちお姉ちゃんたちなんだよ~」

 ボクの言葉に杏ちゃんは嬉しそうに返した。

「じゃあまずは小毬ちゃんの今回の水着についてかな? ボクのとお揃いなんだね」

 小毬ちゃんの水着はボクのフード付きパーカーのタンキニ水着の色違いだった。

 胸のサイズも身長も同じくらいなので、ボクと並ぶとまるで姉妹のように感じる。

「えへへ~。事前に聞いていたのでおそろにしちゃいました! 衣装も作ってもらったのでちゃんと見えてると思うんだけどね~」

 どうやら弥生姉様かそのあたりに聞いたようだ。

 まぁほぼ確実に弥生姉様なんだろうけど……。

「うふふ。よく似合ってるわ。四姉妹になれそうね~」

「むぅ……。わたしだけ水着が違う……」

 嬉しそうに微笑む弥生姉様と一人だけ仲間外れにされて拗ねる可愛い御津。

 二人はそれぞれ違う反応を見せていた。

「えぇ~? 全員同じじゃ意味ないでしょう? あとでお揃いのパジャマ着ようね、雛」

「ほんと~?」

「ほんとほんと」

「やった」

 ぐっと握りこぶしを作り、嬉しそうに柔らかく微笑む御津。

 どうやらボクの提案が相当嬉しかったようだ。

「えぇ~? いいないいな~。っと、さて狐白ちゃんの話にもあったけど、今回の水着は狐白ちゃんとおそろいにしちゃいました~! どう? 似合う~?」

 杏ちゃんはそう言うと来るっと一回転して、黒井フード付きパーカーのタンキニ水着を披露してみせたのだ。

『小毬ちゃん可愛い~!!』

『サービスシーン助かる』

『尻尾の付け根助かる』

『お尻小さい!』

「えへへ。お兄ちゃんたちお姉ちゃんたちはエッチだな~。仕方ない、もっと見たいんでしょう? ほれほれ~」

 悪乗りした杏ちゃんは、尻尾を振り振りしながらハーフパンツを穿いたお尻を少しの間見せつける。

 BANされないかちょっと心配だ。

『まさかの小毬ちゃんサービスシーン!!』

『REC』

『小毬ちゃんのチャンネルでも時々やるよね。ここで観られてよかったよ~』

『ちょうど切らしてたわ。助かる』

 たしかに、ボクが小毬ちゃんの放送を見ている時にはこの光景を時々見かけた。

 狙ってやってるなんて、杏ちゃん恐ろしい子!!

「ぅぁ……。あんなの恥ずかしくて無理だよぅ……」

「さすが小毬ちゃんね。いつもながらあざといわ」

 御津と弥生姉様の反応はこんな感じだ。

 御津に限っては可愛らしくもじもじしだす始末。

 そうこうしているうちにスパチャの投げ銭がいくつも表示されては流れていく。

 しかも視聴者数を見てみると、すでに三万を超えているじゃないですか。

 小毬ちゃん効果恐るべしだ。

「あ、お兄ちゃんたちお姉ちゃんたち、ありがとう~! 本当なら読み上げたいところなんだけど、ここは狐白ちゃんのチャンネルなのでごめんね~」

「あっ、じゃあボクが読み上げますね。小毬ちゃんの分はあとでご相談ってことで」

「は~い」

「それではーー」

 ボクは小毬ちゃんの分の配分を考えながら一人ずつ名前を読み上げていった。

 正直かなり多くて読むだけで時間がかかってしまったけど……。


「さて、お兄ちゃんたちお姉ちゃんたち? 狐白ちゃんと水着がお揃いってだけじゃ面白くない人もいるんじゃないかな~? だったら~、狐白ちゃんが見せていない~、ハーフパンツのな・か・み。見てみたくない?」

『見る見る』

『はよはよ』

『これはBANありえるわ』

『小毬ちゃん大胆! 好き!』

 杏ちゃんの言葉に視聴者さん大興奮。

 普通なら慌てるところだけど、ボクはこれがどうなるのかを知っている。

 というか、小毬ちゃんがあざといと言われる要因の一つでもあるのだ。

「うふふ、でもだ~め。お預けで~す。もしどうしても気になるんだったら~、水着を調べて想像するか~、イラストを描いてもらって妄想してね?」

『でたああああ、小毬ちゃんお得意のお預けコース!!』

『やっぱ小毬ちゃんといえばこれだわ』

『知ってた』

『ま~たあざといって言われちゃうね』

 やはりよく訓練された視聴者さんたちも知っていたらしく、小毬ちゃんの行動を『知ってた』というコメントが多かった。

「さすが小毬ちゃんね~」

「ぁぅ……」

 感心している弥生姉様と恥ずかしそうにしている可愛い御津。

 この二人は相変わらずだった。

 というか御津の行動でファンが地味に増えてるんだけど、それ、狙ってないよね?

『雛ちゃんくっそかわいい』

『何この可愛い狐っ娘』

『これは推せる』

 ボクは御津が心配です。


「さて、色々ありましたけど、今回は別にお知らせがあります」

「狐白ちゃんが前に言っていた件よね?」

「はい、そうなんです。凛音姉様」

「今はすっかりVR技術が発達してきて、生活にも根付いてきましたよね? MMORPGであったりチャットであったり。結構色々なところで使われるようになりました。今回、妖精郷バーチャル街が一時的に体験できるようになります! 詳しくは別途発表される内容をご確認ください。妖種以外のみなさんは、VR技術を通しての体験になりますが、結構リアルな感覚で楽しめると思いますよ。体験版の登場キャラクターは、ボクたち四人とラナ・マリンちゃん、睦月スバルちゃんの六人です。どういう感じになるのかはまだわかりませんけど、みなさん楽しんでくださいね」

「私たちには直接触れることはできないですけど、私たちを模倣したAIがみんなと楽しく遊んでくれますよ」

『あのよくわからない告知のやつ?』

『えっ、VRでも直接会えるってマジ!?』

『神様、ありがとう!!』

『今後色々な子がくるのかな? 楽しみ』

 ボクたちによるバーチャル街の告知は、概ね良好な感触を得られた。

 まだよくわからないというコメントや半信半疑のコメントも多いけど、まずは良しとしよう。

 それに、今後は色々なキャラクターが住む予定になっているし、どんどん賑やかになることは間違いないだろう。

 今回のこの計画は、バーチャルキャラクターたちの救済計画なのだから。

 妖精郷と夢幻酔では現在も色々とテストが行われているので早めに結果を出せるはずだ。

 それと、このバーチャル街はVRを通す以外で外部から人間が来ることはほぼ不可能になっている。

 ボクたち妖種は直接会えることになるけど、立ち入りには許可が必要となる。

 そして、そこにやってくるキャラクターたちは今後そこで転生のような形で生きていくことになる予定だ。

 すべては天照大神ことあーちゃんたちの計画だけど、ただ消えていくことになる子たちが自由に生きられる場所があるなら、それは良いことだと思っている。

 まぁ賛否両論はあるんだろうけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る