第22話 FPSをプレイする2

 戦車というのは実に楽しいと思う。

 このシャーマンは中戦車というタイプのもので結構な火力を持ち高い機動力を持っているとてもいいものだ。

 当然ゲーム内でもその猛威を振るうことになる。

 特にこの市街地マップにおいては。


「敵さん敵さんどこ行った」

 ボクは暢気に操縦しながら小さな窓から敵影を探う。

「暮葉ちゃんご機嫌ね~。周囲の確認と指示は任せてね~。今のところはこっちに来てないけどチームメンバーは交戦中みたいね~」

 NPCがどんな行動をするのかはわからないけど、普通に接敵して戦ってくれているようだった。

 と、そんなことを考えていると味方が発見した敵が隠れているであろうポイントにたどり着いた。

 ここからは突然撃たれて死ぬこともありうるので注意が必要だ。


「弥生姉様、敵注意です。一応チュートリアルで防具を手に入れたと言ってもあっという間になくなるかもです」

「うん、了解だよ~。任せて」

 いくら中戦車があると言っても戦車ゲームではないのでどこまでも戦車で行けるわけじゃない。

 もちろん戦車戦もできるようだけど細かい場所へは降りて向かわないといけなかった。

「敵に奪われたりしませんか? せっかく奪取したのに心配です」

 鹵獲できるということは鹵獲されるということでもある。

 実際生身で外に出て建物を調べた結果、乗っていたロボットを敵に奪われたという事象が発生したロボットゲームがある。

 かといって周囲の安全を確保しないままここにいるわけにもいかなかった。

「気持ちはわかるけど、今は敵を倒してゲージを減らそうね。とりあえず味方のマーカーがない前方の建物群に航空攻撃支援を要請しよっか」

 弥生姉様はそう言うとすぐに支援要請を行う。

 場所の選定は姉様にお任せだ。

 何せボクがやったところで敵が潜んでいそうな場所がわからない。

「む? 姉様何かいる」

「オーケー、暮葉ちゃんは回り込んで追って」

 そう言って姉様はまっすぐに敵に向かっていった。

 ボクはそのまま道を外れて敵を探す。

 

 少し歩くと味方のマーカーが消えた場所があった。

 何人かそこにいるみたいだ。

「姉様、複数人いるみたいです。気づかれていると思うのでご注意を」

「了解だよ。おっと見つけた」

 姉様がそう言うと何発か射撃をする。

「暮葉ちゃん三人いるみたい。追って」

「了解です」

 姉様の指示に従ってボクは敵を追う。

 見つけた。

 ボクはガーランドを構えて射撃を開始する。

 すると敵はすぐに引っ込んで見えなくなった。

 さて、どこからくるか。

 ボクは慎重に見極めようとした。

 しかし――。


「いっつ、どこ!? 上かっ!」

 ボクの画面が一瞬赤く染まり、体力が減った。

 撃たれたのだ。

 しかしすぐにターンという音が聞こえ上から敵が降ってきた。

「暮葉ちゃん大丈夫? 回ってみたら階段があってちょうど暮葉ちゃんのいる場所付近に通じてたから気になって追いかけてきたんだ」

「ありがとうございます、大丈夫です」

「うんうん。どうやら囮に引っかかっちゃったみたいね」

 どうやらボクの眼前にいた敵は囮だったらしい。

 その間に回り込んだ敵がボクを射撃、その結果ボクはダメージを受けてしまったということになる。

 奇跡的に致命傷になる頭は避けたようですぐに戦線に復帰できる。

 ボクはすぐに救命キットを使って体力を回復した。

 死ぬにしても敵を倒してから死なないと意味がない。

 基本は複数人で行動して相手を削っていくのが有効な方法なのだ。

 ソロで行動する場合、相当な実力がない限りかなりの頻度で死んでしまうことになるだろう。

 あとはヒットアンドウェイなど、様々なテクニックが必要になる。

 今いる敵は最初の敵なので難易度は低めなようだった。

 ボクは気を取り直して敵を仕留めに向かう。


 味方NPCは死にまくっているけど敵も倒しているらしく、残りゲージは拮抗している。

 ボクは瓦礫に身を隠しながら移動しつつ敵を探す。

 すると廃墟の階段を上っている敵を発見、狙って射撃を開始する。

 ターンと一発撃つと見事にヒットするが致命傷ではないらしく敵はすぐに上り切って瓦礫に隠れた。

 こうなるとすぐに追うわけにもいかない。

「姉様、回り込めます?」

「了解だよ~」

 姉様にそうお願いすると、姉様はすぐに行動に移した。

 ボクはその間に慎重に階段を上る。

 部屋に入るとすぐに撃たれるだろうから驚かないように注意しておく。

「今だっ!」

 ボクはそう独り言を言うと、部屋の前をすぐに横切った。

 すると少し遅れて射撃音が聞こえてくる。

 やはり狙っていたか。

 そのまますぐに戻り射撃をしながら部屋へ突撃。

 敵はこっちに射撃をしながらバックで高速撤退していた。

 ゲーム特有の謎行動だ。

「逃がさないよ~だ」

 すると敵の退路に姉様が現れ、敵に射撃を行う。

 敵はそのまま姉様に射殺され、すぐに床に倒れた。

 ちなみにボクはというと地味に射撃が当たってしまい、ダメージを受けている。

「暮葉ちゃん大丈夫?」

 姉様が心配そうに声をかけてくれる。

「はい、大丈夫です。ところで航空支援は?」

「もうすぐよ」

 ふと姉様の画面を見るとカウントダウンがされていた。

 そしてそのカウントが0になると同時に、ヒュルルルルルという音がいくつも響き、続いてドーンという大きな爆発音が何度も立て続けに起きた。

 主戦場となっていた場所近辺なだけあって、潜伏中の敵を何人か巻き込んだようで、ゲージがかなり減っていた。

 続いてガンッという鈍い音が響き、何かが煙を吹いていた。

 そっと見るともう一両の戦車が空爆に巻き込まれたようだった。

「空爆こわっ」

 範囲外の建物の陰から見た空爆の光景は空恐ろしいものだった。

 完全に戦争ゲームである。


「さて、結構減ったみたいだし、このまま敵本陣に攻め込んじゃおうか。まずは味方に要請してっと」

 姉様はすぐにてきぱきと指示を行い、味方NPCお敵本陣の場所に向かって進ませる。

 今回のゲームでは敵本陣は秘匿されていないので場所がまるわかりなのだ。

 次回はどうなるか不明だけどね。

「さて、行きましょう」

 姉様はそう言うと戦車に乗り込んだ。

 ボクも続いて乗り込んで、敵本陣へと向かっていった。


 サクサクと進んでいく道中、地雷原があったので迂回しつつ敵の拠点を制圧する。

 このゲームの勝利の仕方はいくつかある。

 一つ目は歩兵たちを倒しまくる。

 二つ目は敵が所有している拠点となる建物を全て制圧する。

 三つめは本陣を直接占領する。

 ゲージは減らしまくれば本陣を占領しなくても勝利できるようになる。

 また敵の出てくる拠点を全部潰せば敵が出てこれなくなり勝利することが出来る。

 これは本陣の制圧も同じだ。

 また制限時間が過ぎても相手より戦力ゲージの残量が多ければ勝利となる。

 PC戦の場合、戦力ゲージがなくなるか制限時間まで戦いきるというパターンのほうが多いだろう。

 今回は一番最初のNPC戦なのですいすいと本陣へ攻め入ることが出来ているだけなのだ。

 一気に敵本陣まで行くと、敵がわらわらと集まってきた。

 この場所には航空支援はできないらしいので戦うしかない。

 石造りの円形の広場に端末が置いてあり、そこに専用機器でアクセスを行う。

 ゲージが100%になるまで続ければ本陣の占領成功となる。

 もし殺されてしまったらその時点までの成果は一定時間残り、それまでに再開すれば続きから行え、間に合わなければリセットとなるようだ。


「それじゃボクがやります」

 ボクはそう言うと端末をクリックする。

 占領開始のゲージが現れ少しずつゲージが満たされていく。

 周囲からは敵と味方両方の銃声が聞こえており大変不安を煽ってくる。

 この間ここから離れることはできないので応戦するか的になるしかない。

 どっちにしてもただ丸見えのおいしい餌である。

 幸いにして、こっちが占領した拠点からはNPCの復活ができるようで、やられたNPCもある程度時間をおいてから駆けつけてくれている。

 マップ内にいくつもある敵味方の拠点はそれぞれがPCやNPCのリスポーンポイントとして機能している。

 当然全占領していない場合は敵もそこから湧くのだが、占領している場所からは味方がリスポーンしてくれる。

 占領ゲージが50%を超えたあたりで近くから砲撃音が聞こえ始めた。

 ふと見ると、戦車に乗った姉様が建物に向かって砲撃している姿が見えた。

 どうやら拠点らしき場所を撃ってけん制しているようだった。

 もちろんその間も敵はやってくる。

「し、心臓に悪い……。早く終わらないかな……」

 そんなことを考えてしまったせいなのか、敵が来ているのを見落としてしまっていた。

 次の瞬間、画面は赤くなり視界は地面にゆっくりと倒れていく。

 占領ゲージは75%まで行ったところだった。

「うわああああ、やっちゃったあああ」

 ボクは急いで最寄りのリスポーンポイントを選択した」

「大丈夫大丈夫、着くまで私が変わっておくわね~」

 姉様はそう言うとすぐに占領を継続した。

 ボクがその場所にたどり着くまでに姉様の元には何回か襲撃があったようだが、すぐに中断してその場を離れ、敵を倒してすぐに再開するという行動を素早く行っていた。

 姉様すごい!!


「姉様、お待たせ」

「おかえりなさい、じゃあ残りよろしくね~」

 姉様はそう言うと占領作業をボクに引き継いだ。

 すでにゲージは95%を超えている。

「もう少しです、姉様」

 味方がいくつかの拠点を占領したようで、敵の攻撃が散発的になり始めていた。

 そしてそのままゲージは100%となり、敵本陣の占領が完了した。

「やったあああああ!! 姉様、お疲れさまでした!!」

「暮葉ちゃんお疲れ様~、FPSはちょこちょこやってたけどこれはなかなか大変なゲームね~」

 姉様はボクを抱きしめながらそう言った。

 正直勝利条件が多すぎるので防衛するにしても大変だ。

 制限時間まで打ち続けてポイントの多いほうが勝ちをいうよくあるFPSのほうが楽というものだった。

 まぁこのゲームが戦争系のFPSだからなのかもしれないけど。

 兎にも角にも、占領作業を終えることで勝利したボクたちは、喜びを分かち合うのだった。

 姉様の豊満な胸の中で。

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