第21話 FPSをプレイする

 温泉から部屋へと戻ったボクの目の前には驚きの光景が広がっていた。

 お母様含め女子四人の部屋だというのに、通常の部屋の二倍ほどある広い部屋に通されたときは驚いたものだった。

 だがそれはこのための布石だったということを今知ることとなった。

 そう、ボクの目の前にはゲーム機器と配信設備があるのだ。


「弥生姉様、これはなんですか?」

 ボクは思わずそう尋ねた。

「明日夢幻酔の子が来るでしょ? その時に対戦ゲームで勝負することになってるんだけど」

「初耳ですよそれ!?」

「ま、まぁ落ち着いて。で、そのための事前準備として今日くらいは練習しておこうと思って用意しました」

「それって相手のほうが有利じゃないですか? 少なくともボクは今知ったんですけど」

 いきなりゲームで対戦するから練習しましょうと言われても素直に応じることはできないというもの。

「あ、それは問題ないの。今回のゲームは開発企業から夢幻酔へ来た依頼の中で提供されたものだから、皆今回が初プレイというわけなの」

「そうなんですね。それでこれはどんなゲームなんですか?」

 ボクは提供されたというゲームについて質問する。

 今回のゲームはテストプレイということもあって製品版とはやや異なる可能性がある。

 普段からゲームをしているボクとしては非常に気になる部分だ。

「いわゆるFPSというやつで、試合内容は八人構成で行われて市街地などにある拠点を一定時間奪取し続けるか、相手のゲージを全損させれば勝ちみたいね。今回は初めてなので武器は事前に用意された物を拾って装備する感じかな。あと乗り物として戦車があるみたいなの。WW2のアメリカ程度みたいね」

 なるほど、戦争系FPSなのか。

 前に少しだけやっていたこともあるのでなんとなく理解できる。

「じゃあごはんまでの間に少しやってみましょうか」

 というわけでボクたちはさっそくゲームプレイを開始した。


「キャラクターの顔はなかなかマシなほうかな? リアル過ぎずひどすぎず」

 作成できるキャラクターは色々あるようだが、テンプレートの中にはアメリカ系やロシア系、そしてイギリス系やドイツ系の俳優のような見た目のキャラクターが存在していた。

 欧米の良いところを抜き取ったようなそんな感じのキャラクターテンプレートで少し安心した。

 ボクの中ではアジア系だとこういうゲームではどうしても違和感がある。

 それに渋い欧米系の俳優さんみたいなキャラクターを操作できるとなると、個人的にテンションが上がるという理由もあった。


「これって時代設定もできるんですね。かっこよさげな感じだとやっぱりWW2かなぁ。あ、でも今は現代ステージは選べないのか」

「そうみたいね~。うんうん。この渋い感じは私も好き」

  ボクと弥生姉様の趣味は結構似通っている部分がある。

 年代の差と言えばそうなのかもしれないけど、葵姉様の時とはやっぱり違った感じがする。

「葵姉様たちはやるんですか?」

「ううん。やってもみなもちゃんたちくらいかな? 酒吞童子ちゃんたちは今配信のレッスン受けてるはずだし」

 あの後浴場で酒吞童子たちと合流したボクはスクナに抱き着かれながら上がった後の予定を聞いていた。

 配信関係の話までは聞けものの、ゲームについては聞いていなかったのでもしやとおもったのだがそんなことはなかった。

 残念。

「とりあえず練習しちゃいましょうか。あ、最初からハンドガンは持てるのか。ええっと、『P-08』ってドイツのハンドガンがいいのかな? 『M1911』ってのもあるみたいだけど、見た目は『P-08』のほうが好きかも」

 多少の違いこそあれ戸ボクはドイツのP-08を選択した。

 でもそれを装備するキャラクターはイギリス系という矛盾。

 今回はテンプレートからイギリス系の渋いおじさまを選択した。

 個人的に結構好きな外見だからだ。


「じゃあ私はアメリカ系の女性軍人でM1911を選択しちゃうね~。別々の武器のほうが面白いかもしれないし」

 弥生姉様はアメリカ系を選択したようだ。

 M1911自体の見た目は今のハンドガンとそう大差はないかもしれない。

 詳しくはないけど、基本的な形はこのあたりから決まってきたのだろう。

「ステージはチュートリアル市街戦で障害物多め、戦車投入ありで航空爆撃ありにするけど大丈夫?」

 ステージ設定をどんどん決めていく姉様。

 ボクと違ってある程度知っているようなのでお任せすることにした。

「はい、問題ありません。航空爆撃ありって要請できるってことですか?」

「うん、そうね。指定方法は範囲指定になる上に二回までしか要請できないから注意してね。それとエリア内の建物は壊れてるけど武器とか食糧などは置いてあるから拾いながら戦う感じになるの」

 弥生姉様の説明を聞き終えると、ちょうどゲームが開始された。

 よくあるタイプのマッチング制のFPSのようで、人数が足りない場合はNPCが参戦してくれるみたいだ。

 それとNPCへは支援要請ができるみたいで、自分たちの攻撃支援や航空爆撃要請も可能なようだ。

 使える権利を無駄にさせないスタイルは嫌いじゃない。


 早速画面には操作説明が表示されていたのでその通りに進め、軽く射撃を行う。

 タンッ、タンッと二発ほど撃って終了する。

 リロード方法は『R』キーのようだ。

 武器の切り替え方法はシフトを押しながら十字キーかマウスイールでの選択、もしくは直接クリックといった感じだ。

「マウスを動かすと視界が移動するっと。で支援系のコマンドはショートカットキーかメニューからか。ふむふむ」

 ゲームは始まっているがボクはじっくりと操作方法を確認していく。

 続いて近くの物資から携行武器を入手。

 今回見つかった『M1ガーランド』というライフルだ。

 どうやらWW2全般を通しての武器が実装されているようだ。

 このライフルは八発撃ったら次のクリップに入れ替えるというシステムだ。

 じっくり狙って撃つ分にはいいけど、マシンガンのように乱射したりしてけん制することには向いていない。


 チュートリアル通りに進むと敵と遭遇した。

 この敵は動かずこっちに銃を構えているのみである。

 まずはこっちの攻撃。

 M1ガーランドで狙い撃って的にダメージを与える。

 続いて向こうが撃ってきてこっちが被弾する。

 それから回復アイテムの使い方の説明が始まる。

 こんな感じでチュートリアルは進んでいき、航空支援等も含めて予定位置まで到達すると『〇人到達完了』と表示された。


「お疲れさま、暮葉ちゃん。ここからいよいよ進軍よ」

 弥生姉様の言葉と共にバリケードが破壊されフィールドへの侵入が可能となった。

 武器などはチュートリアルで入手したものを装備できているので、相手に先んじて攻撃することが出来るはずだ。

 ボクはどんどん進んでいく。

 途中で弥生姉様の場所を確認し、いつでもカバーできるようにしておく。

「敵発見。歩兵です。撃ちます」

 ボクは姉様に合図し相手を射殺する。

 姉様はその間周囲の確認をしてくれていた。

「ナイスだよ、暮葉ちゃん! ゲージもちょっと減ったね」

「ふふん」

 姉様の言葉を受け、ボクは若干上機嫌になる。

 そしてそのまま進んでいく。

 しばらく進むとやがてキュルキュルという音が聞こえてきた。

「暮葉ちゃん、戦車が来たわ。1時方向からM4シャーマン」

 弥生姉様の言葉に従いその方向を見ると確かに戦車が近づいてきていた。

 それほど大きくはないけど今の装備ではどうすることもできない。

「弥生姉様、この場合どうすればいいんですか?」

 ボクがそう尋ねると弥生姉様はこう言った。

「方法はいくつかあるのよ。航空支援で空爆してもらう、地雷を拾ってから起爆させる、ロケット弾で攻撃する、戦車で攻撃する、どこかに登らせるなどして横転させる、そしてそれぞれの窓を狙って狙撃する」

 結構色々な方法があるみたいだ。

 しかしこのゲームのことを考えるならば戦車数はそう多くないはず、となるとやりようによっては乗っ取ることもできるのかもしれないと。

「姉様、あれって乗っ取れます?」

 ボクは試したいと思ったので姉様にそう尋ねた。

「銃座に敵がいなければいけるかもしれないわね~。体当たりされなければ攻撃判定にはならないから」

「じゃあ、やります。ボクが乗り込みます」

 そう言ってボクは戦車の視界から外れた。

 弥生姉様が戦車を引き付けている間にボクはこっそり機会を狙う。


 ズドンっと大きな音が響き、察して事前に避けていた弥生姉様のいた場所に戦車の砲弾が着弾した。

 戦車はスピードを上げずに、でも着実に姉様を追いかけていく。

 ボクは完全に油断していると思われる戦車の上方からこっそり飛びつく。

 取り付きに成功するとなった音を確認しようとハッチが開いたのが見えた。

 敵が顔を出すことを想定し、でも上がったハッチで射線を切れるようにして銃を構えて待機しながら待つ。

 ハッチからはすっと敵の顔が出たかと思うと銃を構えるのが見えた。

 今だ!! ボクはそう思い引き金を引く。

 タンッと銃声が響き、相手の頭部に一撃。

 死んだのを確認し、すぐに戦車を乗っ取った。

 戦車は複数人で操縦することも可能なようだが一人でも操縦することが可能なようだ。

 複数人のメリットはやられても交代が利く上に操作を任せて周囲の警戒に専念できたりすること。

 デメリットは爆破などされると複数人が一気に死ぬことだ。

「弥生姉様、やったよ!」

 弥生姉様にそう伝えると、弥生姉様は嬉しそうに微笑んで応えてくれた。

 そして、弥生姉様を回収し、戦車に乗ったまま敵の排除を開始した。

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