第4話 爆誕! はいてない系vtuber
フォロワーがパンツをはいていないことが発覚した後、急いで盗賊から奪った服をフォロワーに着せたわけだが、毛皮の鎧があまりにもグラフィックがひどすぎた。
せっかく可愛い子だというのにこれでは台無しな気がする。
「うぅ~、仕方ない。さて、緊急事態は脱したわけだけど、問題の根本解決はできてないんだよね。まぁそれは今は置いておくとして、さくっと遺跡探索しちゃおうか」
ボクは弥生姉様の膝の上でもぞもぞ動きながら、ゲームの続きをプレイする。
すると、弥生姉様がボクに声をかけてきた。
「ねぇ狐白ちゃん? ついでだから何か質問受け付けてみない? マシュマロで募集すればすぐ来ると思うんだけどどうかな?」
皆に聞こえる声で話しているけど、声の発生源がボクの耳元のすぐ側なので背筋が若干ゾクソクする。
「うぅ、耳元で話されるとゾクゾクする……。えっと、質問受け付けお願いしてもいいですか? 姉様」
「うん、りょうか~い」
ボクが弥生姉様にお願いをすると、姉様はさっそくスマートフォンを片手に入力を始めた。
どんな内容なのかは今確認できないので、あとで結果を教えてもらうことにしよう。
「ではどんどん行くね~。遺跡探索と言えば罠なわけだけどこのゲームにはどんな罠があるかまだ知らないんだよね。楽しみでありつつもなんだかちょっと怖いな~」
キャラクターを動かしながらコメントをちらりと見ると、早速反応が返ってきていた。
『このゲームの罠は結構えぐいけど、ビビらないようにね』
『狐白ちゃんなら絶対ビビるから楽しみだ』
『どんどん罠にかかっていけ』
『悲鳴期待!』
『あ、そうそう、MODに入ってる家は自動脱衣システムついてたりするから気を付けてね』
「えっ!? 自動脱衣システム!?」
入力されるコメントの中に一つだけすごく気になる情報があった。
まさか脱衣までするなんて。
「えっと、ちなみにどのくらい脱げちゃうの?」
『フォロワーによるけど、成人女性なら全裸、子供設定なら下着までだね』
「それ完全にアウトなやつだよね」
視聴者の皆には悪いけど、この放送は全年齢対応なんで脱衣は遠慮したいところだ。
なんでそんなにほいほい脱げちゃうのだろう……。
『脱衣期待』
『全裸待機してまってる』
『脱衣はよ!』
『狐白ちゃんが脱衣すると聞いて』
「いやいや、脱衣しないしさせないからね!? 大体なんでボクが脱衣することになってるのさ」
何度も言いますがこの放送は全年齢対象なんです。
なので絶対脱衣しませんからね!
コメントの盛り上がりをよそに遺跡の探索を進めていく。
まずは入ってすぐに潜んでいる盗賊を排除する。
回収できるものは回収して少しでもお金を稼ぐようにしつつ、めぼしいお宝を探して探索する。
「うへへ、宝石にお金、回復薬にエンチャント道具類、いいですな~。ウハウハですな~」
遺跡の中はお宝がたくさんだった。
実に素晴らしい!
『意地汚い子狐がいるぞ!』
『狐白ちゃんのうへへ好きだわ』
『声高めなせいか妙に可愛く聞こえるわ』
『欲にまみれた子狐助かる』
「皆ひどい言いようじゃないかな!? まぁ仕方ないけど!」
こうやって何かをやる度に反応してくれるのはすごく嬉しい。
ボクも放送を観たりするけど、きっと皆こんな気持ちを抱いているんだろうなと思うと不思議な気持ちになってくる。
ボクはそんな暖かい視聴者に感謝しつつ、探索を続行していった。
「しっかしこの妙に狭い空間は不思議だよね。もっと通りやすい道にすればいいのに。あと蜘蛛の巣とか木の根っこ多すぎいい」
ねじれた通路にはいたる所に木の根っこや蜘蛛の巣が張られていた。
これだけでも人がほとんど入っていない廃墟であることを示していて、なかなかに面白いと思う。
ただ不気味な模様とかあると、ちょっと怖くなってくるわけだけど。
「ここは絵合わせ? ふむふむ。さてどうなってるんだろ? さっきの盗賊の死にざまを見る限りこのままだとボクもハリネズミになるよね」
『針狐か、新しいな』
『ここはチュートリアルみたいなものだからなぁ、ビビらせる要素少なくて辛い』
『悲鳴はいつですか? そろそろ風邪ひきそうなんですけど?』
『悲鳴全裸待機やめい』
「風邪ひきそうって大丈夫? ちゃんと暖かくしないとだめだよ?」
『天然か』
『穢れを知らなかった子狐が汚されちゃう!』
『天使はここにいたか。狐だけど』
コメントで風邪ひきそうって言ってた人は大丈夫なんだろうか?
見えない人だけど、ちょっと心配だ。
最近寒くなってきたから特に気を付けてほしい。
「では続けていきますね。えっと、ふむふむ。こことここに絵があって、これが動くのか。真ん中がなくて、下に落ちてる石像? の口にあるのが真ん中の絵かな? となるとこうかな?」
三つあったと思われる石像のうち、真ん中だけ崩れていた。
推理の結果、この順番で合わせていけば問題なさそうだ。
動く柱に近づき、くるくると回して絵を合わせていく。
三つ目まで合わせ終わったら、レバーを引いてみた。
すると、カラカラという音と共にゲートが開き、先へと進めるようになった。
「よっし。これで次だね」
ボクは意気揚々と先へ進み、お宝をせっせと集めた。
「ふっふっふ、いいねいいね~、お宝良いね~。って、わひゃあああ!?」
楽しくお宝を回収して満足した後、振り返ったその時、いきなり大きなネズミの襲撃を受けた。
ボクは驚いて体を震わせると操作ミスをしてキャラクターを敵とは違う方向に移動させてしまった。
しかも後ろ向きでだ。
「ちょ、敵どこ!? あれ? いない、痛い、足元!? うええええ、たくさんいるううう」
絶賛混乱中のボクとすごい速さで流れていくコメント。
何が起こってるのか確認するのは後だ。まずは倒さなきゃ!
「ちょ、みえなっ!? あたらなっ!?」
懸命に剣を振るものの、目測を誤って空振りをする。
敵のライフは減らないくせにボクのライフだけはどんどん減っていった。
「ちょっ、死ぬ! フォロワーちゃんへるぷ~!」
なんとか戦っているフォロワーの近くまで逃げてきたボクを、フォロワーちゃんは守ってくれた。
的確に攻撃を当てるとどんどん倒していく。
フォロワーちゃんしゅごい……。
『わひゃあああ頂きました』
『悲鳴助かる』
『ありがてぇありがてぇ』
『今日一番の見せ場だったか!?』
『いやぁ、いい仕事しましたね』
『ネズミパイセンさすがっす!』
コメントはボクの心配よりも悲鳴に関することやネズミをリスペクトするような文章で溢れていた。
皆ひどい。
「狐白ちゃん大丈夫? すっごくビクンって身体が跳ねたけど」
「姉様、シー、シー」
『ビビり散らかす狐白ちゃん好きだわ』
『やっぱり臆病子狐最高だわ』
『可愛い、嫁にください』
姉様、それはフレンドリーファイアです。
でも心配してくれてありがとうございます。
「うぅ、恥ずかしい……。絶対びっくりするような場面じゃなかったよね」
はぁ、本当に恥ずかしい。
ボクはこういう風にびっくりするものに弱いんだよ。
「じゃあちょっと休憩がてらに質問の回答してみる? 残り10分くらいしかないし」
「あ、はい。じゃあお願いします」
「は~い、ではまずこれね。『狐白ちゃんと凛音姉は姉妹ということですが、普段はどんな話をするんですか』」
「普段ですか? う~ん。ボクの学校のことだったり配信の感想だったり姉様の服装や髪形のことだったり話してますね。姉様は基本的に何着ても可愛いのでついつい話すことが増えちゃうんですよ」
最初の質問はボクなら何時間でも語れる内容だった。
時間を作ってもっと語ってあげたいけど今日は残り時間も少ないので短縮版でお届けだ。
『てぇてぇ』
『知ってたけどやっぱり姉妹仲すごくいいんだな』
『惚気ばっかやんけ!』
『くそう! なぜ画像がないのか!』
『そりゃvtuberだからだろ』
『妄想するんだ、狐白ちゃんと凛音姉がいちゃついているところを!』
コメントは謎の盛り上がりをみせていた。
まぁ正直、本来の姿ならキャラクターそのものの姿をしているわけで、そのまま想像されたとしても何も間違ってはいないと思う。
その想像は正しいですよ、皆さん!
「では次いくね~。『狐白ちゃんのパンツの色は何色ですか』か。何色?」
「ほえ? 今ははいてないですよ? お風呂あがった後の配信ですし、寝ることを考えると締め付けるものは付けたくないので」
『マジか!? 全裸放送きたか!?』
『狐白ちゃん大胆だわ』
『ロリ狐はノーパンか、捗るな』
『みなぎってきたわ』
ボクの回答にコメントは大盛り上がりをみせていた。
「えっとほら、パジャマは着ているので裸というわけではないですよ?」
慌てて追加情報を出すも、今度はボクのパジャマの中身について語りだす始末。
「狐白ちゃん、逆効果よ? せめてはいておけばよかったのに」
「えぇ~!? 姉様知ってるじゃないですか。ボクが毎回そうしてるって」
「もう、困った妹ね~。でも可愛いから許しちゃう」
姉様にはやんわりと怒られてしまった。
う~ん、ちょっと配慮なさすぎたかな?
『このロリ狐、意外と大胆だったか』
『はいてない助かる、スパチャ投げさせろおおおお』
『てぇてぇだけじゃなくておかずまで投下してくれるとわ、女神か!? いや、妖狐だわ』
『さっそくまとめにあがってんの草』
『マジだ、仕事はええ』
『そりゃ真白凛音の妹だからそれなりに注目されてるわな』
もらったマシュマロはそれなりの数があったものの、ボクのはいてない騒動のせいで二つしか消化することが出来ずに配信終了の時間を迎えた。
それから少しあと酒吞童子たちから『お前はいてないってマジ?』というメッセージを頂き、その釈明に追われるのだった。
ちなみに『はいてない系vtuber狐白ちゃん』という謎の記事が載せられたせいでチャンネル登録者数が若干増加した。
解せぬ。
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