短編蒐
大森たぬき
第1話「消しゴムの一生」
「昨日なんか眠れなくてさあ、消しゴムの一生について考えてみたんだ」
「ほう」
「まずは持ち主が小学一年生のとき新品の消しゴムとして生まれる」
「親から買ってもらった鉛筆、定規、それと消しゴム。消しゴムが鉛筆に惚れるのは必然だったんだ」
「なんせ定規は薄くのっぺりしているだろ、それと違って鉛筆はスマートでクールだった」
「鉛筆にっと自分の過ちを消してくれる消しゴムは必要な存在で、二人は運命の赤い糸で結ばれていたんだと今は思う」
「持ち主が小学二年生の時ねりけしが筆箱に入ってくる」
「ねりけしは形を自在に変え消しゴムの立場を奪おうとするんだ」
「でも鉛筆は最初からわかってた。ねりけしじゃあ、消し切ってくれない」
「鉛筆と消しゴムの信頼はより深まった」
「持ち主は勉強をするにおいてのねりけしの機能性の低さから、伸ばして遊ぶだけになる」
「持ち主が小学三年生のころバトエンが筆箱に加わった」
「"ただ書く"だけだった鉛筆とは違って、戦闘能力のある鉛筆に筆箱内は騒然とした」
「拳をぶつけ合うバトエンと周りを取り囲む他の文具たち」
「机の上は闘技場と化し連日お祭り騒ぎとなった」
「強さこそ正義のこの世界では、強いバトエンの周りにはいつも文具が群がっていた」
「しかし消しゴムは動じはしなかった」
「なぜならバトエンは一つも削られてない。芯が出ていない」
「書けない鉛筆に興味はないわ」
「そう言われたバトエンは黙るしかなかった」
「バトエンはそもそも文具ではい。ホビーだ。持ち主も削る気はさらさらない。バトエンは闘うために生まれてきたものだ。削ってしまい、闘えなくなっては意味がない」
「消しゴムは居場所のなかった鉛筆に寄り添いこう言った」
「つらい時こそ一緒にいましょう。私たちは支えあうことで成り立っているのだから」
「鉛筆は木くずをこぼしながら、ありがとうと何度も言った」
「持ち主が小学4年生になったころ筆箱内はまた騒がしくなっていた」
「シャーペンだ」
「シャーペン禁止にも関わらず持ち主はシャーペンを買ってきた」
「それは違法ドラッグのようなもの」
「一度手を出してはもう鉛筆にはもどれない」
「鉛筆は今度こそ悟った」
「おしまいだ」
「もう俺に役目はない。これから先は筆箱の奥底で永遠に使われないことを知りながら死んだように生き続けるしかない」
「とはいっても消しゴムは使われる。シャーペンも手直しには消しゴムが必要だ」
「行っておいでよ」
「鉛筆はそういって消しゴムを送り出そうとした」
「が、シャーペンはすぐに姿を消すことになる」
「先生に没収される」
「革新的とは言え違法は違法、持ち主の先生は有無を言わさず没収した」
「なんとか助かった鉛筆は後に消しゴムに聞いた」
「本当はアイツのほうがよかったんじゃないのか?」
「すると消しゴムは」
「あんないつ見つかるかってオドオドしてる文具に魅力なんて感じないわ。シャンとしなさいあんたはすごいんだから」
「鉛筆はまたしても消しゴムの器の大きさに木くずをこぼした」
「持ち主、小学五年生、蛍光ペンが認められる」
「鉛筆の黒だけでは表現しずらかった部分を補ってくれる蛍光ペンとはすぐに仲良くなった」
「消しゴム!見てくれよ!俺の線が、青にも赤にも緑にもなる!」
「はしゃぐ鉛筆をみて消しゴムは安堵した」
「これでもう、私は・・・・・」
「持ち主が小学六年生になったころ、消しゴムは衰弱しきっていた」
「ほとんど消耗している体でなんとか消していた消しゴムだが、限界が近い」
「そろそろ私も眠るときかな・・・」
「自分の最後をもう受け入れている消しゴムの横で鉛筆は大粒の木くずをこぼしていた」
「消しゴム……消しゴム……!しっかりしろ……!」
「なんて顔してるの」
「消しゴム・・・!」
「ふふ・・・私はあなたが大好きだよ。角ばった手、木のぬくもり、そして1本芯の通ったところ、ちょっと情けないところもあったけど私にとってはそこも愛おしかったよ。あなたは何度折れても削ったらまた立ち上がれる。私がいなくても描き続けてね」
「そういって消しゴムはなくなった」
「小学生の時みんな鉛筆と消しゴムを使う。中学になったらシャーペンだったり
もしかしたらボールペンだけなんてやつもいたりするかもしれない。でも、鉛筆と消しゴムを使っていたあの時間はきっと無駄ではないと思うんだ」
「これが消しゴムの一生」
「なるほど・・・・なんだか感動したよ」
「ちなみにだけど、漫画家の下に生まれた消しゴムはかなり不幸だ」
「どうして?」
「一瞬で死ぬ」
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