第787話 教皇の真意

 アカネとアデライト先生だ。


「ホーリー・バインド!」


 先生の指先に浮かんだ魔法陣からいくつもの光の帯が射出される。それらはティエスとイキール、そしてリッターを縛り上げ、確実に拘束した。


「な、なんだこれは!」


「うひょ」


 ティエスとイキールは同じ帯によって拘束され、体を密着させた状態で縛り上げられている。全裸の美少女と密着したティエスは、こんな状況にも拘らず至福の表情を浮かべていた。

 その気持ちを理解できないわけじゃないが、ティエスが大馬鹿野郎だということは否定できない。


 それはそうと、アカネは教皇を狙っていた。

 瞬時に距離を詰め、教皇の襟と袖を取って地面に叩きつける。

 教皇は為す術もなくアカネに組み伏せられる――かと思いきや、柔軟な動きでアカネの掴みから逃れ、ふわりと浮遊して宙に浮いた。


「なんじゃと?」


 まさか外されるとは思っていなかったのか、アカネはほんのすこし驚いたような声を出す。


「妙なスキルじゃな……『ドリーム・リキッド』ほどではないが」


 教皇はニコニコとした笑みを顔に貼り付け、小柄ながら背筋をピンと伸ばしていた。


「ワシの話を聞いてほしいんだ」


 教皇は手を後ろで組み、堂々とこちらを見据える。


「話ってなんだ」


 俺は一応、尋ねてみる。


「ロートスくん。あの人の言葉に耳を貸すの? 聖ファナティク教会の教皇だよ?」


 ルーチェが柳眉を捻じ曲げて言う。


「意外だな。ルーチェがそんなことを言うなんて」


「私はもともと帝国の人間だから……教会の腐敗した部分はよく知ってる。その最たる例が、教皇なんだよ?」


「なるほどな。けど、話を聞いてくれって言われたら、聞きたくなるのが人の性ってもんだ」


「そっか……そうだよね。私は、ロートスくんに従うよ」


「すまんな」


 にわかに静寂が訪れた。

 ゆるやかな風が、俺達の体を撫でた。


「話ってのは?」


「ワシらの目的のことなんだ」


「世界をリセットするとかっていうふざけたやつか?」


「実を言うと、それは誤解なんだ」


「誤解?」


「このティエス・フェッティを見てくれたらわかるんだ。ワシらは女神の降臨を望んではいないんだ」


「けど、イキールは望んでるだろ」


「その小僧はワシらとは袂を分かったんだ。小僧は女神の世界を取り戻すために女神に与したけど、ワシらがここにいるのは降臨を待って女神を打倒するためなんだ」


「なんだと? ネオ・コルトは仲間割れしたってことか?」


「そうじゃないんだ。もともと女神を消滅させるために、一時的に女神の復活ないし降臨を画策してたんだ」


 教皇は一定の抑揚で喋り続ける。

 そのせいであんまり話が頭に入ってこない。


「質問よろしいですか?」


 アデライト先生が手を挙げた。


「質問してもいいんだ」


「では。猊下は女神を倒すと仰いましたが、その先にいかような未来を見据えておられるのでしょうか?」


「いい質問なんだ。旧教の文献を紐解いてたくさん調べたところ、この世界から女神がいなくなれば、世界そのものが消滅することがわかったんだ」


「消滅?」


「そうなんだ。女神は世界の柱であり、根源粒子そのものなんだ。女神が消えるということは、世界が消えるということと同義なんだ」


 なんだと。

 それは、やばいやつやないか。

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