第786話 その裏に潜む深刻な事情
「男っていうだけで、汚いんだよ! ああそうだ! そうなんだよ! わかるか! このクソガキが!」
「……なにキレてんだよ」
「ふざけやがって……! どいつもこいつもよぉ……!」
ティエスの額に青筋が浮かんでいる。今にも頭の血管が切れそうだ。
「もう許さんぞ……! 絶対に許さんぞ! 貴様ぁッ!」
大きく両手を開き、天を仰ぐ。
なんだ。一体、何をする気だ。
「とくと見よ! 私の『ドリーム・リキッド』をぉっ!」
呆けている暇はなかった。
「まずい……みんな! 退避しろ!」
俺が声を張り上げると、女性陣は一斉にティエスと距離を取る。
俺はオルタンシアを抱え上げ、アイリスはルーチェを背負って退避する。サラは、アカネがしっかりと守ってくれていた。
反応できなかったのは全裸のイキールとリッターだ。彼らは裸ゆえに、機敏に動くことができなかった。
そして、ティエスの股間あたりから噴射された白い『ドリーム・リキッド』を全身に余すことなく浴びてしまう。
「ああ……イキール君達が……!」
アデライト先生が悲痛な声を出す。教師として、元生徒が酷い目に遭うことに対して思うところがあるのだろう。
「うわ……なんだこれは! ネバネバするぞ!」
「閣下……!」
ほのかに光る真っ白な液体を浴びたイキールとリッターは、その肉体を変異させていく。
おい、まじか。
「あの……種馬さま……あの、二人。もしかして」
「オルたそ。みなまで言うな」
「はい……」
俺の予想通り、いつの間にかイキールは清潔感の溢れる金髪美少女になり、リッターは美幼女に変貌していた。
「な、なんだこれは!」
「か、閣下が女の子にっ!」
「リッター! お前なのか! どう見ても幼い、少女だぞ……!」
ティエスのスキル『ドリーム・リキッド』の効果によって女に変えられてしまった二人は、わかりやすく狼狽して、白い裸体を惜しげもなく晒している。
見た目だけではなく、声までかわいらしいものに変わっていた。
「ははは! これだよ! これこそ我が『ドリーム・リキッド』の力! 小汚い男を全員美しい少女にすれば、この世には真の平和が訪れる! そうなれば、もはやこの世界に女神など不要だ!」
ティエスは高らかに笑う。
俺は戸惑うしかなかった。
どういうことなんだ。女神が不要だと? ティエスは女神復活派じゃないのか。
「貴様……! 僕の体を、元に戻せッ!」
美少女と化したイキールはティエスに詰め寄って胸倉を掴むが、その行為は相手を喜ばせるだけだった。ティエスは鼻息を荒くして、興奮していた。
「種馬さま……これは、いったい?」
「俺にもなにがなんだか」
目の前の光景が理解できず、把握もできず、俺はただ困惑していた。
だが、その中で冷静な者もいた。
「なにをボケッとしておる! 好機じゃろうが!」
「彼らの動きを封じます!」
アカネとアデライト先生だ。
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