第768話 首の皮一枚
すでに夜は明けつつあった。
窓から差し込んでくる日の出の光が、司令室の中を照らしている。
司令室の中には、難を逃れた数人の生き残り達が、身を寄せ合うようにして座り込んでいた。
「あ……アニキ!」
その固まりの中からぴょんと跳び上がったのは、顔に擦り傷を作ったロロだ。
「アニキだ! アニキが来た!」
喜びと安堵を全身で表現しつつ、ロロは俺に飛びついてくる。
「ロロ。無事だったか」
俺はロロの頭をよしよしする。
「おせーんだよ! ほんとに、やばかったんだからな!」
目尻に涙を溜めて、俺にしがみつくロロ。
「すまん。これでも急いだんだ」
それでも、助けを待つ方からすれば長く感じただろうな。
俺は、他の生き残り達に目を向ける。
「副長。お前も無事だったか」
「……喜んでいいのかわからんナリ」
憔悴しきった副長は、ぐったりと座り込んでいる。相変わらず露出の激しい装いだが、今はそんなことも気にならないくらいの状況だ。
「生き残ったのは、これだけか?」
「いや。助かる見込みのある者達は、医務室にいるナリ。そっちは族長が仕切っているナリ」
「そうか」
「街の方にも捜索隊を派遣しているナリ。比較的無事だった者は、まだまだ動けそうだったナリよ。正気を失わず、なんとか混乱を食い止めようとしてくれたナリ」
「そうなのか?」
あの霧を吸って心が折れないのは、なかなかの精神力の持ち主だな。どんな奴らなんだろう。
内心抱いた疑問を察したのか、アカネが口を開く。
「ファルトゥールの霧は、大切なものを持っていたり、世界に希望を持っていたりするほど効くのじゃ。なんともないということは、そもそも世界や人生に執着していない証拠じゃ」
「それは、なんというか。素直に喜んでいいのか」
「無気力であることがプラスにはたらく場合もあるのじゃな。それによって、自分のなすべきことを見つけられたのじゃし」
良かった。とは言えないが、不幸中の幸いだろう。
少なくとも全滅は免れたのだから。
「そういえば、貴様の連れてきたあのビッチも無事ナリよ」
「メイさんか」
「ああ。あの女も大概狂っていたが、屈強な獣人とまぐわうことで正気を取り戻していたナリ。私にはとんと理解できんナリよ」
「はは。メイさんらしいな」
けだものセックスによって正気を失うんじゃなくて、取り戻すなんてな。そんな女は、古今東西探してもメイさんくらいだろう。
「サラのねーちゃんは大丈夫なのか?」
ロロは心配そうに、アカネの腕に抱かれるサラを見ている。
「案ずるな。眠っているだけじゃ」
「そっか。よかった。オイラを逃がすために、ねーちゃんが暴走した奴らを食い止めてくれたんだ。だから……」
「大丈夫だロロ。すぐ目を覚ますさ」
「……うん」
ひとまず、この街の状況を確認したい。
グランオーリスの方も気になるが、先にこっちを把握してしまおう。
向こうは〈蓮の集い〉本拠ということもあって、頼りになる奴らがいっぱいいるからな。
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