第741話 実は最強

「加勢する。先生は守護隊を連れて他の対処を」


「わかりました」


「みんな、先生を頼んだぞ」


「御意」


 俺は飛び降りるために、城壁に手をかける。


「ロートスさん。待ってください」


 俺を呼び止めた先生は、魔力を帯びた指先で虚空に円を描く。すると、金の残光が輪となり、その内側から剣の柄が飛び出した。


「アイテムボックスを魔法で再現したものです。まだ小さな空間しか作れず、剣一振り収納するのが精一杯ですが」


 剣を取り出した先生は、それを丁寧に差し出した。


「使ってください。せっかく苦労して取ってきたのですから」


「ああ。ありがとう先生」


 俺は剣を受け取り、鞘から引き抜いた。

 二年前の俺が作り出した世界最強の剣。『斬る』ということにかけて、他の追随を許さない天下無敵の刃である。

 鬼に金棒とはまさにこのことだ。


 益々やる気が出てきたぜ。

 俺は城郭から飛び降りて、ネルランダーとジョッシュとの間に割り込んだ。

 そして、ジョッシュの太刀を弾き、ネルランダーを押して距離を取らせる。

 結果、ネルランダーは内郭の隅に移り、中央では俺とジョッシュが対峙することとなった。


「なんだあいつは!」


 観戦していた侍の一人が叫ぶ。


「ジョッシュ殿のお力は常人の域を超えているのだぞ! スピード、パワー、テクニック、駆け引きに至るまで世界最強レベル!」


「それなのに、ああも容易く割って入るなんて、一体何者なんだあいつは!」


 どうやら解説役がいるようだ。

 ジョッシュは二振りの太刀を交差させ、その間から俺を見据える。


「ム。そちは……〈尊き者〉か。なんとなんと。そちの方から来てくれるとはのぅ。探す手間が省けたわい」


「なに?」


 どういうことだ。


「ロートス! 親コルト派の狙いはキミだ! ここにいてはいけない!」


 片膝をついたネルランダーが叫ぶが、訳がわからない。


「わからねーな。俺はお前らに恨まれるようなことはしてないと思うけど」


「恨みではなく、大義じゃ」


「ますますわからんぞ?」


「そちは〈尊き者〉としての本分を忘れ、堕落しおった。その報いを受ける時が来たのじゃよ」


「馬鹿を言うな。俺はちゃんとエストを滅ぼそうとしてる」


「たわけが。それが堕落というんじゃ」


「どういうことだよ」


 まったく話が読めん。


「愚かな男よ……まさか疑いを持たんかったのか? 急いで来てよかったわい」


 やれやれと言った風に、ジョッシュは首を振る。



「説明が不足してるぞ。ちゃんとわかるように言え」


「よかろう。そちを殺して、その骸に語ってやるわ!」


 どうやら対話の余地はないようだ。

 ジョッシュは二刀を構え、一足飛びに肉薄してきた。


 凄まじい速さだ。英雄級であることは間違いない。明らかに意志の力を発言している。

 クィンスィンの民の中で最強の武士というのもあながち否定できない。

 だが。


「遅い」


 俺にとってはな。

 ジョッシュの放った斬撃は空を斬り、それどころか業物の太刀が二振りとも粉々に砕け散った。

 俺の放った殺気が、質量となって武器を破壊したのだ。

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