第735話 残酷な一面
その日の夜。
俺はグランオーリスの王宮にある地下牢を訪れていた。
先導してくれるのは、カンテラを持ったコーネリアだ。
「結構下りたな」
「ええ。ここの階段は千段ありますから」
「千段も? 戻る時が大変だな」
千段もの段差を降りた先、ひんやりとした空間には、頼りない魔法の照明だけが光っている。
たった一つだけある地下牢は、堅牢な鉄格子と魔法による強化によって厳重に閉ざされていた。
その中にいるのは、拘束具をつけた魔王アンヘル・カイドだった。
「よう、アン。気分はどうだ」
アンは地べたに座り込んだまま、虚ろな目で俺を見上げる。
「……アルバレスの御子」
アンがつけている拘束具は、俺が〈妙なる祈り〉によって作り出した特別製だ。あれを着けている以上、アンはただの平均的な二十代女性レベルの力しか出せない。もちろん魔法も権能も使えない。
「どうしてあーしを殺さないのです」
「慌てるな。まずは聞きたいことがある」
目線を合わせる為、鉄格子の前に腰を下ろす。
「エレノアはどこだ?」
「聖女ですか。あーしが知るわけないでしょう」
「とぼけるな。お前のレーザービームで大怪我した後、瘴気を纏ったドラゴンがエレノアを連れ去ったんだ。お前意外に誰がやるんだそんなこと」
「知らないものは知りません」
「そうか。なら、力づくでも吐いてもらうしかないか」
そう言っても、アンは顔色一つ変えない。
むしろコーネリアの方がびっくりしていた。
「ロートス。拷問をする気ですか」
「そうだ。喋らないってんなら仕方ないだろ」
「しかし……いえ、わかりました」
「苦手か? こういうのは」
「好きな者などいないでしょう……」
「いないことはないと思う」
俺は立ち上がると、片手で鉄格子をひん曲げ、牢獄の中に入った。
アンはすべてを諦めたような目を、俺の足元に落としている。
「好きにすればよろしいです。どうせあーしにはもう、存在する価値も、理由もない」
「そうかよ」
俺はアンに手をかざす。指先から放たれた光が、粒子となってアンに降り注いだ。
「これは……」
イメージを具現化する〈妙なる祈り〉を用いて、アンの肉体に変化をもたらす。
「うっ」
次の瞬間、アンの顔色が変わった。
「これは……っな、なにをっ……」
急に呼吸が乱れ、苦しそうに唇を引き結ぶ。
俺はそんなアンの目の前に胡坐をかいた。
「さぁ、エレノアの居場所を教えてもらおうか」
「ですからっ。あーしは知らないと――」
俺の人指し指が、アンの肩を突いた。
「ああああああああああああああああああっっっっ――」
物凄い悲鳴をあげて、アンは体を弓なりにのけ反らせた。
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