第692話 絶望のはじまり

「さらに。これは公になっていない情報なんですが、ヘッケラー機関なる秘密結社を壊滅させたという話もあります。ノイエ殿は、かの機関についてご存じですか?」


「さぁ?」


「恐ろしい組織でした。神の力を手にし、この天下を我が物にせんと目論む者達です。もし仮にヘッケラー機関が健在であれば、天下は今より比較にならぬほど乱れていたでしょう」


「そんなことはどうでもいい。ロートス・アルバレスについてそれだけ調べておいて、どうして接触しようと思わなかった?」


「……あまりにも妙だからです。まさしく破天荒。前代未聞の人物だ。それゆえ簡単には近づけない。下手に接触すれば、我が祖国グレートセントラルが更なる災いに苛まれる危険があります」


 人を怪獣みたいに言うな。


「虎穴に入らずんば虎子を得ず」


 俺の頭をよぎったのは、転生前の世界にあったことわざだった。

 テンフははっとした顔つきになる。


「けだし名言。ノイエ殿。このテンフ君、棒で叩かれたかのごとく目が覚めました」


「そりゃよかった」


「早速ロートス・アルバレスの消息を探らせましょう。如何せん神出鬼没な人物ゆえ、現在の居場所が掴めぬのです」


 そうだろうね。

 テンフは立ち上がり、一礼する。


「ノイエ殿。突然の訪問にも拘らずご教示下さり感謝いたします。次にやるべきことを理解したゆえ、これにて失礼いたす」


「うぃ」


 そうして、テンフは足早にテントから出ていった。

 直後。


「モンスターの襲撃だッッッッッ!」


 外から兵士の怒号が聞こえてきた。


「ノイエ殿ッ!」


「ああ」


 血相を変えて戻ってきたテンフと共に、俺はテントを飛び出た。


「これは……!」


 テンフが擦れた呟く。

 黄昏の空に瘴気が渦巻き、千を超えようかという数のモンスターが飛び交っていた。

 ドラゴンを筆頭にワイバーンやグリフォンなど強力な種族や、翼を持つ異形のモンスターも数多い。


「うわぁ! あの数は本当にやばいぞ!」


「今までこんな多く来たことなんてなかったのに! どうして今日に限ってこんなに来るんだ!」


「奴ら、いつもより纏っている瘴気が濃い! あんなのが降りてきたら、ひとたまりもないっ!」


 周囲の兵士達は阿鼻叫喚である。

 テンフも冷や汗を垂らし、空を仰いでいた。


「これはまずい……国が滅びるレベルだ……! なぜ急にこんなことが……!」


 絶望とはまさにこのことだ。

 テンフは近くの兵士を捕まえて声を荒げる。


「おい! どうして真上に来るまで気が付かなかった!」


「も、申し訳ありませぬ! しかし、我々が気付いた時にはすでにこの状態でした。つい先程まで影も形もなかったのです……!」


「なんたることだ……! くそっ。全軍、応戦せよ! 貴様はこのテンフ君の武器を持ってこい!」


「はっ!」

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