第676話 すごい人達

 アルドリーゼはネルランダーを無視し、俺に耳打ちしてきた。


「今回の会談には、余を含めて四人の代表が参加するんだよ~。今来たのはハンコー共和国の首相だね~。軽い感じだけど、甘く見ちゃいけないよ~。王制だったハンコー王国を、革命を起こして共和国に変えた、血気盛んな革命家さ。若い頃は、一人で一国の軍事力に匹敵するとまで言われた戦士だったらしいし~」


 まじか。人は見た目によらないとは、よく言ったものだ。

 まぁ俺の方が強いからなんでもいいけど。


「グレートセントラル! 天子ソウ・リュウケン様が、ご到着されました!」


 さらに一組、会場に入ってくる。

 すごい存在感の男だ。細く鋭い目。ひん曲がった口。黄色人種だが、クィンスィンの民よりも濃い顔をしている。服装は、なんとなく秦の始皇帝のような感じを彷彿とさせる。

 巨体の護衛も、どことなく中華風の鎧を身に纏っており、一振りの戟っぽい武器を担いでいた。


「ふん。趣のない建造物アル」


 皇帝ソウ・リュウケンは、円卓の一席につくやいなや文句を垂れ流した。


「文化の水準は、朕のグレートセントラルとは比べ物にならないアルね」


「はっは。あなたも相変わらずだね。リュウケン殿のお国に華やかさで勝るところなんてあるのかい?」


「ネルランダー首相はよくわかってるアルよ。朕の国と張り合えるのは、かのヴリキャス帝国くらいアル」


「たしかに、帝国はやべぇよね」


 ネルランダーはヘラヘラと、リュウケンはしかめっ面で会話をしている。

 なんか、険悪なのか和やかなのかわからないな。

 アルドリーゼが再び俺に耳打ちしてくる。


「あいつがグレートセントラルの天子だよ~。歴史のある国のトップだから偉そうだけど、あいつ自体は大したことないかな~。後ろの護衛が、宰相もやっててね~。警戒するなら彼かな~」


 なるほど。君主はダメだが、大臣が優秀なパターンか。さもありなん。


「して、ジェルドの女王よ。本日も赤子連れアルか」


「そだよ~」


「ふん。これだからおなごは。そんなに母性本能をアピールしたいアルか」


「そんなとこ~。心配しなくても、この子はかしこいから会談の邪魔はしないよ~」


 アルドリーゼは淡々と嫌味を受け流す。

 そうか。アナベルが特別であることは公表していないもんな。まぁ、スパイとかもいるだろうから、知られていると考えていた方がいいだろうけど。


「ま、いいじゃないか。子どもはかわいいよ。次代を担う希望でもあるしね。オレは赤ちゃん同席、大歓迎さ」


 ネルランダーが両手を広げて力説した。


「ところで、三国の代表が集まったわけだけど……肝心の聖女様はまだかな?」


 そうだ。エレノアも来るんだ。

 わかっていたことだが、いざとなると緊張してきたな。

 そして。


「ヴリキャス帝国! 聖ファナティック教会聖女、エレノア様がご到着されました!」


 ついにエレノアが、姿を見せた。

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