第675話 ウッ
そして今、俺の目の前にはジェルドの影の長が倒れている。
護衛の交代に不満を見せていた影の長だが、いざ決闘が始まると俺の腹パンで気絶したのである。
「馬鹿な……我らの長が」
「ありえぬ……! あのような腹パンだけで……!」
「そうよ……! 腹パンだけで、我らの長が敗れるなんて……信じられない」
観戦していたジェルドの影たちが驚愕している。
というかこいつら、以前俺とオルタンシアの情事を覗いていた女達じゃねぇか。部族の精鋭部隊がこんなんでいいのかよ。
「おみごと~」
アナベルを抱いたアルドリーゼがこちらにやってくる。アナベルはきゃっきゃっと楽しそうに拍手をしていた。
「やっぱりアナちゃんの目に狂いはなかったね~。うちの兵士にこんな強い子がいたなんて驚きだよ~」
「どうも」
俺は短く返事をする。実は声も舌足らずなロリ声に変わっている。俺の趣味ではなく、ソロモンが強く推したからだ。
「キミ。スキルと職業は?」
久しぶりに聞かれたな、それ。
「スキルは『腹パン』。職業は『腹パン師』です」
俺は今考えた適当なスキルと職業を答える。
「へ~。聞いたことないやつだね~。でも、あれだけ強いならぜったい神スキルだよ~。護衛はキミに決定で~」
これはラッキーかもしれない。
どうやって会談の場へ忍び込もうかと思っていたところだ。
「じゃあ、時間もないし会場に向かおっか」
俺、首肯。そして、会談の場である大講堂に戻ることになった。
大講堂内は高い天井の大伽藍だった。アルドリーゼは、アナベルを抱いたままクソでかい円卓の一席に座った。机もデカいが、椅子もデカいだ。いくらアルドリーゼの尻がでかいといっても、デカすぎる椅子である。
俺はその後ろに侍ることにした。
「いえー」
アナベルが手を振ってくる。俺も小さく振り返した。
「さ、そろそろ来るんじゃないかな~」
アルドリーゼがこころもち緊張感のある声で呟く。
その直後、大講堂の扉が開かれ、ジェルド兵士の張りのある声が聞こえた。
「ハンコー共和国! 首相ネルランダー・バラモン様が、ご到着されました!」
そして会場に入ってきたのは、日本の板前がつけているような白い帽子を被った、色黒のおっさんであった。小柄で細身のおっさんは、鼻髭を弄りながら、円卓の一席に腰を下ろす。その後ろに、屈強な男の護衛が立った。
「おひさ。ジェルドの女王ちゃん。相変わらずの爆乳だね」
手を上げてあいさつするネルランダー首相。目尻にしわを作る様子は、お茶目なおじさんという印象を受けた。
「後ろの護衛ちゃんも、おっぱい大きいね」
俺にウインクしてくるネルランダー首相。きっしょ。あれ? これってブーメラン?
「我の胸筋も、負けておりませぬ!」
ネルランダーの護衛が、筋肉を強調してそんなことを言った。そんなことで張り合うなよ。
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