第672話 最終手段
しばらく待っても、答えは返ってこない。
黙秘というわけか。
「種馬さま……」
オルタンシアがちょいちょいと俺の袖を引っ張る。
「ああ。わかってる」
ソロモンが信用に値する娘かどうかは、すでにわかっている。
仮にこれが罠だったとしても、罠ごと圧し潰せばいいだけのことだ。
俺にならそれができるし。
「ま、答えたくないならいいさ。こっちも無理に聞く気はない。俺みたいな超イケメン有名人には、ストーカーの百人や二百人いてもおかしくない」
「なにそれ」
ソロモンが小馬鹿にしたように鼻を鳴らしたが、不思議と不快にはならない。
「そんで? これから何をするのか、計画があったりするのか? ソロモンちゃんよ」
「もちろんよ」
言いながら、ソロモンは机の上に地図を広げる。
そして、ある地点に指を置いた。
「明後日の朝。ジェルドの王宮で軍事会談が開かれる。マッサ・ニャラブ共和国、ハンコー共和国、グレート・セントラルから各国の代表が集まるの」
「軍事会談ね」
「それだけじゃないわ。二度目になる今回の会談には、ヴリキャス帝国の使者も参席する」
「帝国か」
「会談の議題は、グランオーリスへの総攻撃。彼らは想定を上回る激しい抵抗を見せるグランオーリスに対して、一気に攻勢を仕掛ける気よ」
「……そんなにあの国を落としたいのかよ」
「グランオーリスを滅ぼせば瘴気の被害も収まると思ってるからね」
「死ぬほど馬鹿な連中だ」
物事を自分の見たいようにしか見ていない。グランオーリスが黒幕とか誰が言い出したか知らないが、真実を知ろうともせず、悪役を捏造して、それを攻撃することで安心しようとしているだけじゃねぇか。
その結果どんな未来が待っているかなんて想像もしていないんだろうな。
しわ寄せを受けるのは、いつだって無辜の民だってのに。
「総攻撃が始まれば、グランオーリスは長く持たない。なにせ、あの人がいる」
「……エレノアか」
ソロモンは頷く。
「だから総攻撃が始まる前に、各国代表が一堂に会するその軍事会談を狙う」
「急襲してまとめて叩くのか?」
「いいえ。あなたには、警護の兵として会談に潜入してもらうわ」
「潜入?」
「そう。荒事にはしない。代表だけをこっそり拉致するの」
「そんなので総攻撃が中止になるか?」
「すくなくとも遅延はする。グランオーリスに備える時間を与えることができる」
「ふーむ」
「それに国家の要人を手にすれば、取引の材料にもなるわ」
そんなことをすればグランオーリスのイメージが悪くなると思うんだが。
まぁ、やり方によるか。今は手段なんざ選んでられない状況だもんな。
「わかった。明後日だな」
潜入任務なんて初めてだから、上手くできるかわからないけど。
まぁ最悪、暴れてすべてを破壊すればいいだろう。
俺にはそれができるからな。
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