第641話 一時的な協力関係に過ぎない
「何者でござるか」
ムサシの鋭い眼光が俺の眉間を突き刺す。
「ロートス・アルバレス。亜人連邦から来た」
「亜人連邦……? それにしてはおぬし、亜人ではないではござらんか」
「別にいいだろ。亜人の国に住む人間がいても」
俺はあえてヘラヘラした態度をとった。場の空気を和ますために。
「ジョッシュ殿に何の御用でござるか」
「たぶんあんたと一緒さ。親コルト派の動きを食い止めたい」
「信じろと? おぬしが奴らの一味でないとも言えんでござる」
「たしかに。まぁ聞いてくれよ話を。俺が敵なのか味方なのか。判断するのはそれからでも遅くないだろ」
「よかろう。話してみるでござる」
「そのまえに」
俺はムサシの腰を指さす。
「剣から手を離してくれないか? いつ抜かれるのかとヒヤヒヤしちまうぜ」
「え?」
ムサシは驚いたように腰の剣を見る。ごつい手は柄にかけられており、腰は深く沈んでいる。
「なんと。構えていた……? 無意識に……拙者が?」
おいおい。
「主様の超々英雄級の実力を見抜き、反射的に構えるとは。この者の位階は非常に高いところにあると見えます」
レオンティーナがしみじみと言う。
「そうか?」
「大空を舞う鷹も空の高さまでは知りません。大海をたゆたう鯨も、海の深さを知らぬまま死んでいくでしょう。自身の目で世界を知るには相応の力と知恵が要るということを、私も常日頃思い知らされております」
「ふーん」
そんなもんか。
ムサシは戸惑いながらも構えを解く。
「それじゃ、簡単に話すわ」
俺はムサシに、ドーパ民国での出来事を簡潔に伝えた。
メイの件や、親コルト派による暴動などだ。
「隣のお国で、そんなことが?」
「ああ。ドーパ民国だけじゃない。帝国の息がかかった他の国でも、同じようなことがおこってるらしい。瘴気のモンスターへの対応だけでも苦しいってのに、戦争や内乱まで起こっちまってるんだ。かなりやばい状況だってことはわかるだろ」
「そりゃわかるでござるが」
「この城に親コルト派の連中が入り込んでるってのは確かだ。あんたもそれを知ったからジョッシュとかいう男に会おうとしてるんだろ。なら目的は同じだ」
「……わかったでござる」
ムサシは高くそびえる城を見上げる。
「どうやら拙者も歓迎されてはいない様子。独りで赴くよりは、おぬしらと手を組む方がいいでござるな」
「そうこなくちゃ」
俺は手を叩く。
「じゃあ行こう。事は一刻を争うぜ」
「承知」
ムサシは俺に一礼する。
「ロートスと申したか。よろしく頼むでござるよ」
「ああ。こちらこそ」
俺もそれに倣って腰を折った。
礼儀というのは、古今東西において欠いてはならないものということだな。
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