第635話 ゆ友情パパワー!

「な、なにぃ……!」


 エルゲンバッハは驚き、振り返る。


「王国の英雄がどんなもんかと期待してきたがよ。歪んだ正義に呑まれた酔っ払いだったとはな」


 カマセイの振りかぶった大剣が、煌びやかな青い光を宿す。


「この『ソードマスター』の一撃で、あの世へ送ってやるぜぇ! ジジイ!」


 そして、振り下ろす。

 俺との拮抗で身動きの取れないエルゲンバッハは、その一撃をモロに背中に喰らうことになった。


「うおおおおお――ッッッ!」


 悲痛の叫びをあげるエルゲンバッハ。その力が急速に減衰していく。

 勝機を見たり。このチャンス、逃さないぜ。


「おりゃあ!」


 俺は『ものすごい光』を全開出力にし、エルゲンバッハに光の刃を放った。

 輝く刃はエルゲンバッハの分厚い腹を突き破り、胴体を貫通。その衝撃で、エルゲンバッハの意識を吹き飛ばした。

 『激震』の咆哮が止まる。

 エルゲンバッハは、その場で立ったまま気を失い、動かなくなった。


「ふぅ」


 なんとかなった。

 カマセイが来てくれたおかげだ。


「王国の英雄も、大したことはなかったな。帝国騎士団長の俺様にかかれば、ざっとこんなもんだぜ」


 カマセイの自信満々な物言いも、もっともだ。

 まさかエルゲンバッハに一撃喰らわせるなんて、思いもよらなかった。

 エルゲンバッハは〈妙なる祈り〉的パワーで全身を固めていた。それを破ってダメージを与えるなんて、普通なら考えられないことだ。


 一体どうして、カマセイにそんな芸当ができたのか。

 もしかしてこいつも、〈妙なる祈り〉的パワーを発現させたのだろうか。


「ん?」


 俺はカマセイの握っている大剣をよく見る。


「おい。お前、その剣」


「おお。すごいだろ。ヴリキャス帝国の騎士団長だけが持つことを許される、神剣だぜ」


「神剣……」


 厳かな装飾が施された白銀の大剣。その重厚な剣身からは、たしかに神性の力が感じられる。


「聖女から貰ったのか?」


「んなわけねーだろ。教会と騎士団は仲悪いしな。この剣は、古くからヴリキャス帝国の皇室に代々伝わる神剣だ。なんでも帝国を興した初代皇帝が、十万の敵兵の血を女神に捧げたことで、褒美として与えられた剣らしいぜ」


「呪いじゃねぇか」


 たしか帝国を作ったのはエンディオーネだと、マクマホンが言っていたな。じゃあ、その剣を授けたのはエンディオーネだ。だったら神性が宿っていても不思議じゃない。


「エンディオーネの剣か。なるほどな」


 それならエルゲンバッハに傷をつけたことにも合点がいく。


「それよりおい。俺様の腕を治してくれるんじゃなかったのか?」


「ああ。忘れてた」


 そういえばそんなこと言ったっけ。

 俺は瘴気を操作することで、カマセイの腕を作り上げていく。

 前に俺が切られた腕を瘴気で補ったのと、同じ要領だ。


「うお! なんだこりゃ! 真っ黒じゃねーか!」


「でも、ちゃんと動くだろ。それに、もとの腕よりよっぽど頑丈だ」


 カマセイは漆黒の腕を動かし、拳を握ったり開いたりしている。


「なんだよこの腕。黒すぎんだろ」


「文句言うな。カッコいいだろ」


「ああ。カッコいい」


 瘴気の腕で大剣を握り、カマセイは目を輝かせた。


「暴徒の鎮圧に行ってくるぜ!」


 そう言って、颯爽と駆け去っていくカマセイ。その後に帝国騎士達が続いた。

 俺はやっと、一息を吐く。

 なんか、怒涛の展開だったな。


「帝国騎士団長カマセイ・ヌー。噂に違わぬ豪傑ですね」


 今までどこに隠れていたのか。

 フランクリンが馬の上で、感慨深げに呟いていた。

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