第633話 宿命を見下ろす
「ぬおお!」
エルゲンバッハの雄たけびが、ヨワイの街にこだまする。暴動の喧騒を突き破り、天をも衝く勢いだ。
「まじか……! ただのスキルじゃねぇのかよ!」
スキルを無効化する瘴気をぶち当てているはずなのに、奴の『激震』は一向に消えない。
この力、まさか〈妙なる祈り〉に準ずる力なのか。十分にあり得る話だ。サニー・ピースやハラシーフの例を思えば、エルゲンバッハがその力を発現させていてもなんらおかしくはない。
〈妙なる祈り〉は、人がもともと内に秘めている力なのだから。
俺とエルゲンバッハの拳は、まったくの互角のような感じで、互いを吹き飛ばしあう結果となった。俺は勢いよく吹き飛び、いくつもの建物を突き破りながら街の端にまで到達。
「いてて……」
瓦礫の中で空を見上げ、拳をさする。
なんて奴だ。天下無双最強無敵であるこの俺と、ここまで張り合うなんて。
この感じだと、レオンティーナのことが心配だ。
「主様。ご無事ですか!」
と思ったけど、どうやら杞憂だったようだ。レオンティーナは寝そべる俺の顔を覗き込んできた。
「俺はなんともない。お前こそ平気か?」
「はい。右腕が折れましたが、それだけです」
「あのパンチを喰らってそれだけで済むなんて。強いな、レオンティーナは」
「もったいないお言葉です」
レオンティーナの差し出した左手を掴み、瓦礫の中から出る。
「腕は大丈夫なのか?」
「医療魔法はかけました。ですが、明日までは使い物にならないでしょう」
「だったら、お前はもう戦闘には参加するな。メイさんを探しに行ってくれ」
「……御意」
レオンティーナは頭を垂れる。
自分の力不足を悔いているような感じだったので、俺はレオンティーナの頭を撫でることにした。
「主様?」
「頼むぞレオンティーナ。お前の働きに、この国の命運がかかってる」
超絶イケメン的スマイルとイケボによるナデポ発動、と思っていたけど、レオンティーナは想像していたような反応は見せなかった。
あれ?
「私達は主様の陰です。ですから、いついかなる時も主様のご意思に従います。ですが、一つだけお聞かせください」
「ん? いいよ。なんでも聞いてくれ」
「帝国は主様の敵です。ドーパ民国は帝国の手先。なぜこの国を救おうとするのです?」
「なんだ、そんなことか」
思わず笑ってしまった。
俺にとっちゃとっくの昔に答えの出た問いだ。でも、みんなが疑問に思うのも仕方ないかもしれないのかな。
「俺は世界を救うと決めてる。それはこの世界に生きる人達を救うってことだ。国とか、所属とか、そんなのは関係ない。そりゃあ、現実には味方もいれば敵もいるけどな。全部ひっくるめて救うんだ。小さな自分に囚われず、大きな目的のために戦う。それが使命に生きるってことなんだよ」
俺はレオンティーナの頭をぽんと叩く。
「さぁ、行くんだ。メイさんを見つけて、魅了を解いてくれ」
「御意……!」
心洗われたとはまさにこの事だろう。
レオンティーナは清々しい表情を浮かべ、その場から跳び去った。
さて、俺は俺のやるべきことをしよう。
エルゲンバッハを止められるのは、この俺だけだ。
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