第632話 再会じゃあ

「ともかく、まずはこの騒ぎをなんとかしよう」


 俺が動こうとした、その瞬間。


「ハァッッッッ――!」


 鼓膜を揺るがす裂帛の気合と共に、頭上から墜落してきた影があった。

 その衝撃たるや凄まじく、落下点を大きく抉って瓦礫と砂塵を巻き上げる。


「なんですか!」


 レオンティーナが腰の剣に手をかけた。

 彼女の表情は一気に引き締まっていた。たった今落ちてきた人物の、強大な気配を感じ取ったからだろう。

 俺にも分かる。こいつは、只者じゃない。

 立ち上る土煙に、大柄な人影が浮かび上がる。そいつはゆっくりと歩を進め、砂塵の外へと出てきた。


「久しいですな……ロートス・アルバレス!」


 しわがれた声が聞こえ、その姿が明らかになる。鉄の兜をかぶり、立派な髭を蓄え、剥き出しの腕は丸太のように太い。


「お前は……」


「『激震』のエルゲンバッハ……! なぜこんなところに……?」


 レオンティーナが息を呑む。

 王国の大英雄であり、クーデターを起こした逆賊でもある。たしか、親コルト派とかいう組織に属していたはずだ。


「まさか、この暴動はお前の仕業か?」


「なにをバカなことを。某のせいではないと、もはや分かっておられるだろう」


「なに?」


 エルゲンバッハは、いやらしい笑みを浮かべている。


「我ら親コルト派、王国を守るためなら手段は厭わぬ。帝国に属するこの国は、直ちに破壊することとしたのだ」


「なんだと?」


「ドーパ民国だけではないぞ。帝国に与する国家は、すべて地図から消滅させる。そして一つ余さず王国の領土となるのだ」


「そのために、メイさんを使ってこの国の男達を魅了したのか」


「いやそれは違う。あの娘は、自らの欲望からこの惨状を作り出したのだ。我らはその背中を軽くしたに過ぎぬ」


 まじかよ。まさか親コルト派が裏で手を引いていたなんてな。

 さしもの俺もそこまでは見抜けなかった。


「主様。魅了を解いて回るには数が多すぎます。ここは大元であるスキルの使い手を探しだし、魅了の効果を消させるしかありません」


「ああ。わかってる」


 その瞬間、エルゲンバッハの拳がレオンティーナを吹っ飛ばした。


「そうさせないために、某が出てきたというわけよ」


 レオンティーナは咄嗟に剣で防御していたものの、エルゲンバッハのパンチの威力を殺すことはできず、大通りの端まで転々と転がっていった。


「てめぇ……!」


 不意を突いたとはいえ、守護隊の一員であるレオンティーナをああも簡単に打ち飛ばすなんて。

 エルゲンバッハ。二年前より格段に強くなってやがる。


「某の『激震』。今再び御覧じろ。ロートス・アルバレス!」


「しゃらくせぇ!」


 俺は右腕に瘴気と『ものすごい光』を纏わせ、エルゲンバッハに叩き込む。

 エルゲンバッハも同じく、『激震』の力をこめた拳で、迎え撃ってきた。

 拳と拳が、激突する。

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