第606話 出た~

 コッホ城塞を襲っていた百超のドラゴンは全滅した。


「スキルが、ああも簡単に瘴気に勝つなんて……!」


「ありえねぇだろ……それほどなのかよ……!」


 先生とマホさんが驚くのも無理はない。

 瘴気には通常のスキルを無効化する性質がある。だからこそ瘴気は世界に対して猛威を振るっている。

 効率よく瘴気に対抗するには、同じく瘴気を用いるか、あるいは神性を纏った女神由来の力を使うしかない。例えば、エレノアの聖女パワーとかがその例だ。


 では何故、俺のスキルが瘴気の鎧を楽々貫いたのか。

 これは俺の『ものすごい光』が超絶神スキルだからだ。

 神スキルは、単に強力だから神スキルと呼ばれているわけではない。その名の通り、神性を纏ったスキルであるからだ。つまり、エレノアの聖女パワーと同質の力なのだ。

 世界各地の実力者が辛うじて瘴気に対抗できているのは、こういう理由がある。


 瘴気を克服し、この世界の根源を理解し、そしてついには神スキルを手に入れた。そんな俺だからこそ、自ずとこの真実に辿り着くことができた。誰に教えてもらうまでもなく、深い研究をするわけでもなく、ただ直観したというわけだ。


「今の俺なら、マーテリアに勝てる」


 これは自信じゃない。確信だ。

 コッホ城塞に静寂が訪れる。先程までの混沌が噓みたいだ。


「マスター。あれを」


 後ろで先生とマホさんを守っていたアイリスが、ふと上空を指した。

 ドラゴンが遺した瘴気の残滓が待っている。無数の黒い粒子にも見えるそれらは、意思を持っているかのようにうねり、流れ、やがて一点に集束していく。

 そして、人の輪郭を形成し、ほのかな輝きを放ち始めた。


「あれは……」


 俺達はその人型を見上げる。


『なるほど。さすがはアルバレスの御子というわけですか。我が眷属がこうもあしらわれるなんて』


 最初、俺はこの声がマーテリアのものだと思った。

 だが、そうじゃない。

 これは紛れもなく人間の声。しかも聞き覚えがある。


『こんなことになると分かっていれば、あの時に手を打っていたのですが』


 暗い輪郭は、明らかな人の姿を取る。

 長い黒髪を一つくくりにした色白の女。どことなく日本人的な雰囲気を醸している。

 長身でスレンダーな、ミステリアスな美女。


「お前は……!」


 二年前、オルタンシアと神の山を訪れた時に会った女だ。

 グランオーリスのギルド長の娘。

 そして、神の山の守り人。

 あの時はたしか、アンと名乗っていたか。


『あーしの名は、魔王アンヘル・カイド。この世界への帰還、まこと歓迎いたします。アルバレスの御子』


 漆黒のドレスを風にはためかせ、その女は妖艶な笑みを浮かべた。

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