第605話 形容詞

「なんだ……?」


 断続的に訪れる爆発音と振動。

 このコッホ城塞が攻撃されているということに気付くまで数秒もかからなかった。

 俺達は顔を見合わせる。


「襲撃? そんな、ここは幾重にも偽装と隠蔽の魔法がかけられているのに」


「女神には魔法なんざ通用しないってことなんでしょう。みんな外に出るんだ」


 戸惑う先生を立ち上がらせると、俺はその手を引いて出口へ向かった。崩れた建物の下敷きになる前に出た方がいいと判断したからだ。

 カフェテリアの外に出て、俺は一瞬だけ絶句した。

 見上げた一面の空に、瘴気を纏ったモンスターがうじゃうじゃと飛び交っていた。


「おいロートス。こいつぁ……!」


「マーテリアの差し金ですね。さっそく俺の居場所を特定してきやがった」


 上空にはゆうに百匹を超えるドラゴンが縦横無尽に飛翔しており、それぞれが極大の火炎弾を吐きまくっている。クラスター爆弾のように降り注ぐ無数の火炎弾は、コッホ城塞の建物群を瞬く間に破壊し尽くしていく。


「強引な手に出てきたな。城塞ごと落とすつもりか?」


「そんな……こんなものが地上に落ちたら」


「大変なことになりますよ。落下の衝撃で甚大な被害が出るのもそうだし、大量の粉塵が舞い上がり日光が遮られ、核の冬が来る」


「核の冬……ですか」


「ええ」


 詳しいことはよくわからないけど、なんか、元の世界でそんな話を聞いたことがある。

 俺はアイリスをちらりと見た。こんな時でものほほん笑顔だ。


「逃げるだけなら簡単です。アイリスに乗っておさらばすればいい。でも、このままじゃ世界規模の被害が出る」


「だったらどうするんだ? 空を飛ぶ奴らを一体一体倒して回るってか? 日が暮れちまうぜ」


「大丈夫ですマホさん。瘴気に侵されたドラゴンの百や二百。今の俺にとっちゃ羽虫の群れみたいなもんです」


「相変わらずもったいぶった言い方が好きだな、お前さんは。なんとかできるってんなら、とっとと動きやがれってんだ」


「任せてください」


 俺は一歩前に出て、腰の剣を抜く。


「ロートスさんあぶない!」


 アデライト先生の声。見上げれば、一発の黒い火炎弾が俺の頭上に迫ってきている。

 一見しただけでわかる。ハンパない威力の炎だ。ただでさえ強力なドラゴンのブレスに、瘴気のバフまでかかっている。熱と破壊のエネルギーがこれでもかというほど凝縮されている。並の英雄程度なら触れただけで跡形もなく消滅してしまうだろう。

 けど今の俺にしてみれば、小春日和のそよ風にも等しい。

 迫る火炎弾に、剣の切っ先を向ける。


「くらえ」


 高く掲げた剣尖から、無数の光線が迸る。百を超えるきらびやかなレーザービームは、火炎弾を切り裂き消滅させ、各々異なる軌道を描いて、上空のドラゴン達に襲いかかる。

 そして、全弾が一匹も余さず直撃。瘴気の鎧を突き破り、まもなく爆発四散させた。

 肉片すら残らない。飛び散った血は、一滴残らず蒸発して消えた。


「すごい……これが、ロートスさんの新しいスキルの力……」


 そう。

 これが俺の新スキル『ものすごい光』の威力だ。

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