第591話 倍返しだ
「う、うわぁ! なんだこれは!」
「禍々しいにもほどがあるッ!」
「た、助けてくれお!」
兵士達は為す術もなく、漆黒の大津波に呑み込まれていく。
莫大な瘴気の奔流に、どんな魔法も、スキルも、役に立たない。俺のヘヴンズフォール・コラプションは、すべてを無効化していく。
「なんじゃコレー!」
ただ一人、キーウィの投石だけが瘴気に対抗することができていた。
しかし、それで兵達を守れるわけじゃない。
十数秒にわたって広がった瘴気の大津波は、マッサ・ニャラブ軍を壊滅させると、そのまま虚空へと溶けていった。
後には、荒れ果てた大地と、そこに横たわる無数の兵士達だけが残る。
「し、信じらねぇーって。ウソじゃこんなん」
残念だが、真実だ。
立っているのは、キーウィと、奴が跨る獣だけだった。
「安心しろ。誰も死んじゃいない」
俺は呟く。
「お前達にも家族がいるだろう。その人達を悲しませるような真似はしたくない」
この期に及んで甘いかもしれないが、偽りない本心だ。殺さずに無力化できるなら、それが一番いいだろう。
「こいつらの目が覚めたら、さっさと撤退しろ」
「ぐ、グヌヌ」
キーウィは肩を震わせて口惜しさを耐えているようだ。
ふむ。
やっぱりこいつは防ぎ切ったか。
ヘヴンズフォール・コラプションは、俺の中に溜め込まれた瘴気のすべてを解放をして撃ち出した、いわば超必殺技だった。
瘴気は女神マーテリアの力だ。それを無傷でやりすごすなんて、改めて、人の秘めたる力には驚かされる。
神が人を恐れ、その力を奪ったことにも納得せざるを得ない。
ところで、ヘヴンズフォール・コラプションって技名はかなりかっこいい気がする。
ヘリコプター斬りと並んでお洒落な技名トップスリーにランクインしそうだ。
「今のでホントに確信したんじゃ。やっぱグランオーリスは瘴気を生み出した極悪国家じゃとよ」
「呆れるな。短絡的すぎるぜ。俺だって瘴気の被害者だっつーの」
「瘴気を完璧にコントロールしておいて何を言うんじゃ。あれだけの威力をだしながら、さらに命を奪わないように加減までするなんてよぉ。ただの人間ができる芸当じゃねーんじゃ」
あっそ。
「とにかく。もう終わりだ。とっとと国へ帰れよ」
「いーやまだじゃあ」
だしぬけに、キーウィの投石が俺に迫った。
もうええって。
飛来した投石を、俺は瘴気を纏わせた腕で受け止める。強い。しっかり踏ん張って止めなくてはならないほどの威力だった。
「なんじゃと! すべてを打ち砕く勇者の魔弾が……! ありえないんじゃ!」
「理の枠を外れてんのは、なにもお前だけじゃないんだよ」
俺は受け止めた岩石に瘴気を纏わせ、投げ返してやる。
「え」
投げた俺自身がびっくりするほどの勢いで、岩石は飛んでいった。
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