第586話 やべぇ報せ

「どうしたの」


 息を切らせたコーネリアに、セレンが問いかける。


「中層より急報です。マッサ・ニャラブ共和国の軍が、国境を越えて我が国への侵攻を開始したと……!」


 なんだって。


「なぜ? あの国とはうまくやっているはず」


「それが……」


 言いにくそうにするコーネリアを、セレンが視線で促す。


「マッサ・ニャラブの言い分はこうです。瘴気噴出の元となっている神の山はグランオーリスにある。にも拘らず、かの国は一向に対策を取らず、世界はいよいよ滅亡の危機に瀕している。これはグランオーリスの陰謀である、と」


「そんな馬鹿なことがあるか」


 俺は思わず口を開いた。


「瘴気の影響を一番受けてるのはこの国だ。国内に瘴気の発生源があるってのに……普通に考えたらわかるだろ」


 実際にグランオーリスに来てみて、実感していることだ。この国が冒険者の国じゃなかったら、今ごろとっくに滅びているんだぞ。


「その通りです。これが言いがかりなのは明白」


 息を整えながら、コーネリアは真剣なまなざしを俺とセレンに見せる。


「国境の状況を教えて」


「は。つい先程の情報では、国境警備隊が応戦しているとのことです。しかし」


「マッサ・ニャラブとの国境には大きな戦力を置いていない」


「はい。このままでは突破されるのも時間の問題かと」


 まじかよ。


「冒険者は動いてないのか? 冒険者が集まれば、敵を押し返せるだろ?」


「もちろん付近の冒険者達は援軍として急行しています。しかし、そもそも国内は人手不足なのです。力のある冒険者達はみな瘴気の対応へ追われています」


 確かにそうだ。

 瘴気に侵されたモンスターが最も多いのはこの国なんだから、実力者はいくらいても足りないくらいだろう。


「なら、どうする」


「今は国王陛下のご判断を待つしか……」


「そんな悠長なことは言ってられない。ここから国境まではどれくらいかかる? 俺が行ってなんとかする」


「無茶な……それに、ここからでは早馬を走らせても数日はかかります……!」


「だったらすぐ着く。アイリス!」


 俺が呼んだ瞬間。

 どこからともなく光が降ってきて、それは着地すると同時にエンペラードラゴンへと姿を変えた。

 セレンと視察するにあたり、密かにアイリスを護衛につけていたのだ。国内とはいえ一国の姫だから、念の為な。それがこの迅速な対応に繋がった。


 街の広場に突如現れたエンペラードラゴンに、一帯はにわかに騒然となる。この際、アイリスの正体がバレてしまうとか、住人の混乱とかは二の次だろう。

 俺はさっさとアイリスに飛び乗る。


「待って」


 セレンの声。


「あたしも行く」


 決意に満ちた瞳に見上げられ、俺は頷いた。


「わかった」


 俺の手を取り、セレンもアイリスの背に乗り込む。


「コーネリア。あなたも来て」


「は。もちろんです殿下」


 コーネリアの目に躊躇いはない。セレンと共に戦う意志がみなぎっていた。


「よし、いくぞ。アイリスの速度なら一時間とかからない」


 そうして、アイリスは勢いよく飛び立ち、瞬く間に空高く飛翔した。

 俺達は、亜人街を抜けて、マッサ・ニャラブとの国境へと直行したのだ。

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