第584話 二度目の約束
「やっぱり、辛いっすか。世界に認識されないってのは」
俺の顔を見て、ウィッキーは眉尻を下げている。
「はは。なんだよ。もしかして同情してくれてんのか?」
「茶化すなっす。ウチだって、人を心配する気持ちくらいあるっすよ」
「……べつに。関係ない奴に忘れられてもなんとも思わないさ」
これは強がりではなく、紛れもない本心である。
「だったら、どうしてそんな辛そうな顔をしてるっすか」
こりゃ参ったな。俺は今、そんな顔をしているのか。
「俺は、お前に忘れられてるってことが苦しいだけだ」
「……なんすかそれ」
「あの時あったはずのお前の想いが、今はもう感じられない。それが、なんか……な」
こうしてゆっくりしていると、目の前の忙しさに追われ忘れていた侘しさがこみ上げてくる。
大切な人に忘れられてしまうことは、なにより悲しい。今まで自分が積み上げてきた全てを否定されているようで。
「ロートス」
ウィッキーの沈痛な表情が俺を見ている。俺ははっとした。
「いやすまん。別にお前を責めようってわけじゃない。お前が負担に感じる必要はないんだ。俺はただ……ああくそ、こんな話をするつもりじゃなかったんだけどな」
「ロートス」
立ち上がりこちらに歩み寄ったウィッキーは、俺の前にしゃがんで手を握ってくれる。
「人は誰もが胸の中に苦しみを抱えているっす。ウチだって、故郷を失くして、奴隷になって、サラと離れ離れになって、殺し屋なんかさせられて……それでも今は、亜人のため、世界のため、前を向いて生きてるっす。どうしてそうなれたのかは、もう忘れちゃったっすけど」
握った手に、力がこもる。
「あんたがウチを救ってくれた男だって言うんなら、それを憶えてなくても、今度はウチがあんたの力になりたいっす。だから、ウチに忘れられたことが寂しいって言うのなら……ちゃんと思い出させてくれっす」
「ウィッキー」
「そしたら、ちゃんとロートスのことを思い出したら、胸くらいいくらでも触らせてあげるっすよ」
「……言ったな」
ウィッキーの言葉、そして瞳には、成熟した優しさと、いつか見た想いの欠片が宿っている。
俺は唇をぎゅっと引き結び、それから小さく笑いを漏らした。
「今度は、忘れるなよ」
ニカっと笑うウィッキーは、やはり二年前よりもずっと大人びて見えた。
こいつも、俺の知らないところで大人になっている。人として大きくなってる。
だったら、俺も負けちゃいられないだろ。愛想尽かされでもしたら、堪ったもんじゃない。
俺は男だ。
男は勝ってなんぼだろ。
もし今の状態が、俺の行いが招いた結果だとしても。
そんな運命に負けるつもりはない。必ず勝って見せるさ。
そして、思う存分ウィッキーのおっぱいを揉みまくる。
必ずな。
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