第570話 近くまで来ているのは確かだよ

「なんだ? 魔法?」


 俺の呟きの後、広場には魔力の奔流が迸った。

 すごい威力だ。

 すべての砲弾が一撃でモンスターを消し飛ばしている。


 さらには、命中精度も段違い。外れている砲弾は一つとしてない。

 そして、モンスター一体一体の大きさや頑丈さに合わせて、砲弾の威力も調整されている。街に被害がでないようにしているのか。

 凄まじいコントロールの精度だ。まさに神業と言ってもいいだろこりゃ。


 加えて、どこから飛んできているのかも分からない。

 魔力の発生源が感じられないところを見るに、かなり遠くから発射された魔法のようだが。


「あら? これは……」


 アイリスが小首を傾げている。


「相変わらず凄まじい。ぞっとします」


 アイリスにどうしたと尋ねる前に、コーネリアがそんなことを漏らした。


「知っているのか? あの魔法」


「ええ。あれは」


 コーネリアの視線がセレンに向く。


「師匠の仕業。あたし達が来たことに気付いたみたい」


 師匠とな。

 セレンの師匠か。それならあのとんでもない魔法も頷ける。


「もしかして、待ち人って」


 セレンは頷く。


「師匠のこと」


「なるほどな」


 たしかにそれは会わないといけないな。師弟関係は、時に親子より優先されるべきものだ。


「師匠が道を空けてくれてる」


「ありがてぇ。これ以上待たせるのも悪いし、先を急ごうぜ」


「ん」


 俺達は廃墟と化した街を進む。

 進路上にいるモンスター達は、空から降り注ぐ色とりどりの魔法によってことごとく消滅していった。


「やべーな」


 何回見てもすごい魔法だ。

 これほどの魔法使いがグランオーリスにいるなんて、思ってもみなかった。

 エレノアみたいな感じで、魔法に関する神スキルの持ち主なのかもしれない。


「そういや、亜人街に向かうって話だったけど、あとどれくらいだ?」


「わからない」


「え?」


「想定よりダンジョン化の進みが速い。どのくらい空間の膨張が起こっているのか判断できない」


「空間の膨張……元の街より広くなってるってことか?」


「そう」


 なんじゃそりゃ。

 ダンジョンってなんでもありなんだな。

 俺が腕を組むと、コーネリアが落ち着いた声を出す。


「とはいえ、近くまで来ているのは確かです。モンスターの相手をせずに済んでいることですし、じきに辿り着くでしょう」


「だといいが」


 こういう時は、アンラッキーな出来事が起こるのが常だ。

 物事ってのは上手くいく方が不思議で、大体悪い方向にいくもんだからな。


「マスター。あれを」


 アイリスが前方を見据える。


「なるほど」


 どうやら、俺の予感は当たったようだ。

 街にそびえる巨大なドーム。壁の一部が崩れ落ちたそのドームの隙間から、ひときわ大きな獣の瞳が覗いていた。

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