第565話 モブ兵士くん
メインガンに到着したのは、陽が傾きかけた頃だ。
セレン達と合流してから数日経っていることを考えると、ここまで来るのに割と時間を食ったことになる。
俺が瘴気に侵され尽くされてしまうまで、あとどれくらいか。痣の進行を考えると一刻の猶予もなさそうだ。
まぁ、今は目の前のことに集中するけどな。
城壁に囲まれたメインガンの街は、近くで見るとかなりの威圧感だ。
有事の際には軍事拠点になるというのも頷ける。
俺達は閉鎖された城門の前で、守衛の兵士と挨拶を交わす。
「王女殿下……? それに、そちらはエライアの騎士団長ですか。これは一体?」
セレンの姿を見とめた兵士は、供がたった三人しかいないことに困惑しているようだった。騎士団が護衛についているという話が通っていたんだろう。
兵士の表情が引き攣る。最悪の事態を思い浮かべたようだ。
「道中、何度もモンスターの襲撃に遭った。騎士団は壊滅。冒険者達も命を落とした」
セレンの淡々とした受け答えに、兵士が青ざめる。
「それは、なんと申し上げればよいのか……とにかく、ご無事でなによりです」
「この二人のおかげ」
セレンは俺とアイリスを一瞥する。
「王国から来た冒険者」
「なんと。王国の」
それを聞いた兵士は、俺とアイリスに向かって深く頭を垂れた。
「王女殿下をお守り下さり、感謝いたします」
「いや、とんでもない」
この兵士はだいたい十代半ばくらいだろうか。
俺やセレンと同じくらいだ。
それなのにすごく礼儀正しいなぁ。
この世界でも十代半ばってのはちょっと尖っている奴が多い。現代日本と同じく。俺もそうだしな。
同じ歳くらいの俺にここまで礼儀正しくしてくれるなんて、できた人間だ。
「殿下、少々お待ちください。上層までの案内を呼んでまいります」
「待て、その必要はない」
コーネリアが兵士を制し、次に身を寄せて耳打ちをした。
「殿下と我々は下層に向かう。わかるな?」
「……はっ」
かしこまった兵士は、敬礼をして門に手を向けた。
「開門!」
合図と同時に、鉄の城門が音を立てて開かれていく。
「どうぞお通り下さい」
俺達は門をくぐる。すると、再び門が閉じられた。
門が常時開放されていないことを見るに、この街の警備はかなり厳重なようだ。
まぁ、今この国はモンスターの脅威に脅かされているから、どの街でも同じようなものか。
グランオーリスだけじゃないな。大なり小なり、世界中が瘴気に侵されたモンスターの脅威に怯えている。そんな感じの雰囲気がする。
なかなか辛い現状だ。
この世界を救えるのは俺しかいない。
たとえそうじゃなくても、そういう気持ちでいることが重要だ。
速いとこセレンの用事を済ませて、神の山に行き、瘴気の根源を断つとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます