第566話 大貧民、負けてマジギレ
メインガン中層はにぎやかな街だった。
商業が発展しているところは、王国のドボールを想起させる。
そういえば、今ごろロロはどうしているだろうか。
サラやルーチェや、他のみんなは何をしているだろう。
特に、エレノアのことが気になる。俺の痣をなんとかしたら、すぐにでも帝国に向かいたいな。
というか、あれからヒューズの奴から連絡はない。ほんとに潜入しているんだろうな。
「マスター」
「ん?」
アイリスが俺の袖をちょんと引っ張る。
「何か気がかりなことでも? 心ここにあらずとお見えしますわ」
「いや……なんつーか、やることが多いなって思ってな。問題が山積みだ」
「焦っても仕方ありませんわ。一つ一つ片づけて参りましょう。わたくしも微力ながら、力を尽くします」
「ああ。サンキュな、アイリス」
アイリスはいつもの柔和な笑みを浮かべる。
その笑顔の質が、このところ少し変化してきているように見える。なんか距離感も近くなっているし。
俺がこの世界を去る前のものに近づいているような。
アイリスはまだ俺のことを思い出していないはずだから、もしかしたら今回の旅を通して信頼を築いていけているのかもしれない。
そうだったら嬉しいわ。まじで。
まぁ、思い出してくれたらもっと嬉しいんだけどな。
そんなこんなで歩いていると、いつのまにかどんよりとした街並みを辿っていた。王国の新王都リッバンループにあったアイリーン地区を思い出す。淀んだ空気は、あの場所によく似ている。
「ここが下層か?」
「いいえ」
俺の呟きに、コーネリアが返事をした。
「ここは中層と下層を繋ぐ地区です。制度上は中層扱いですが、実質的には中層と下層の間という認識をされています」
「ふーん」
通りには貧しそうな装いをした老若男女が行き来している。ほんのりと悪臭が漂っているのは、路傍に散乱するゴミのせいだろう。
俺達の身なりが綺麗だからか、周囲からは無遠慮な視線がぶつけられる。コーネリアが騎士然としているおかげで絡まれたりはしない。それに、この通りには何人もの兵士が巡回している。治安維持の為だろう。
「下層ってのは、ここよりもひどい場所なのか」
「ええ……」
コーネリアは答えにくそうに言う。
「なぁセレン。こういうのって、国のサポートでなんとかならないのか?」
「ならない」
前を歩くセレンは淡々としている。
「政治は国民の生活を左右する大きな要素の一つ。でも決して万能じゃない」
「って言ってもな。こんなのを見せられると、やっぱりなんとかしてやりたいって思っちまうよな」
「政治は富める者だけのものでも、貧しい者だけのものでもない。国家のバランスを保つためには、しなければいけないことと、してはいけないことがある」
「言いたいことはわかるけど」
「国王陛下は格差や貧困問題を憂慮されています。瘴気発生の前までは、解消の為の政策も打ち出しておられました。建国後とはすなわち戦後でもあります。その時は今よりもっとひどい状態でした。これでも大きく改善された方なのです」
コーネリアの言葉に、俺は反論できなかった。感情でものをいうことは簡単だが、それじゃ意味がない。
ふと、セレンが立ち止まる。
俺達もそれに倣う。
「これは」
目の前には、大きな石造りの円柱があった。
数十の兵士達と、何人かの冒険者達が、厳重に警備をしている建物だ。
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