第550話 強くなりすぎなんだよなぁ

 セレンの無表情と、サーデュークの薄ら笑いが睨み合う。


「次代の国母になるべき王女ともあろうお方が、非情に過ぎますな」


「あなたには理解できない。憎しみに囚われ、妄執に足を取られた憐れな叔父様」


「ハハ。言い得て妙かもしれませぬ」


 サーデュークの手に再びハルバードが握られる。


「では改めて、この場の全員を抹殺させて頂くとしよう」


 いやに挑発的な口調だった。

 こいつ、何を企んでやがる。


 俺は痛む身体に鞭を打ち、サーデュークに斬りかかる。

 だが、それよりも速く、サーデュークは若い騎士の一人に攻撃を放っていた。


 まずい。間に合わない。

 また一人殺されちまう。


「ヌッ」


 音を置き去りにして飛来した氷の矢が、ハルバードを弾いた。

 セレンの撃ち出した戦闘魔法だ。


 それだけじゃない。

 神速の勢いでサーデュークに肉薄したセレンは、氷の双剣を振るう。二振りの剣は、あたかも氷のように半透明で、粉雪にも見紛う無数の結晶を散らし続けている。

 氷の矢によって体勢を崩したサーデュークの胴体に、双剣の華麗な連撃が叩き込まれていた。


 速い。

 俺の目でも、追いかけるのがやっとの速度だ。

 黄金の胸当てはズタボロに斬り刻まれ、サーデュークは堪らず後退する。


「ハッハ! これはなかなか……!」


 反撃を繰り出すサーデュークだが、セレンは身を翻して紙一重で回避する。


「遅い」


 まるでダンスのように軽妙なステップで、セレンは無数の斬撃を放ち続ける。

 サーデュークは防戦一方だ。


「まじかよ。セレンあいつ……」


 あんなに強くなってたのか。

 魔法学園でパーティを組んでいた時に比べて格段に強くなっている。

 今の俺やアイリスに比べても遜色ない。

 いや、あるいはそれ以上かもしれないぞ。


「ハハ! やりますなぁ殿下! しかしッ!」


 ハルバードの重い一撃が、セレンに迫る。

 かろうじて剣を重ねて防御するも、小柄なセレンは軽々と宙に打ち飛ばされてしまう。


「奇襲は見事! とはいえ勢いに任せるだけでは勝てませぬぞ!」


 セレンに焦った様子はない。そもそも無表情だ。


「パワープレイしか能のないあなたに言われたくはない」


 空中で剣を握るセレンの両手が、青白い輝きを放つ。


「フリジット・キャノン」


 拳を打ち出すようにして放ったのは、いつか見た光の砲弾だ。

 一発じゃない。同時に五つの砲弾が散弾のようにサーデュークに迫る。


「そんな雑な狙いではなぁっ!」


 跳び上がってサーデュークは砲弾をかわすサーデューク。フリジット・キャノンは大地に着弾して巨大な氷柱と化す。


「死んでくださいよぉッ! 殿下!」


 ハルバードの切っ先が瘴気を帯びた。

 大きく振りかぶったサーデュークの背後に、巨大な瘴気が生じる。

 あれは、確実に殺しにいく感じだ。さっきとは違う、間違いなく致死の一撃だろう。


 どうするんだ。

 今の俺には、セレンの戦いを見守ることしかできないのか。

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