第546話 やったか!
「あの時、我は確かに死んだ。だが死にきれなかった我は魂となって尚この世に存在し続けたのだ。そして、他でもない魔王様が復讐の機会を与えてくださった。瘴気によって肉体は復活し、魔族として新たに生を享けた。要約すればそういうことだ」
「わかりやすい説明ありがとよ」
瘴気の肉体か。なるほど。魔族の正体ってのは、そういうことか。
知性を持ったモンスターなんてシロモノじゃない。瘴気から作られた肉体を得た、人間の怨念。それが魔族という存在なんだろう。元の肉体はすでに失われているから、瘴気に侵されることもない。そう考えれば確かに理屈には合うような気もする。
「サーデュークだっけか。お前の個人的な恨みはわかった。けど、どうにも腑に落ちないことがある」
「ム? なんだ」
「魔王が魔族を作った理由だよ。何の為に魔族なんか作り出したんだ? 知ってるか?」
「知らん」
サーデュークは吐き捨てるように言う。
「魔王様は偉大なお方だ。あの方の甚深たるお心を理解するには、我は矮小に過ぎる。否、我に限らず、この世の全てもまた然りだろう」
「ふーん。そこまで言うからには、さぞすごい奴なんだろうな」
やっぱり魔王は、女神マーテリアか。それくらいじゃないと色々と説明がつかない。
「フ。よく喋るな少年。王女を逃がす時間を稼ごうとしているようだが、無駄なあがきだと知れ」
「なに?」
「王女が逃げた先には、事前にモンスターを配置しておいた。貴様達は最初から挟み撃ちにされていたのだ」
まじか。
まさか、そんな戦術を使ってくるとは。いや、魔族の正体が元人間だというなら、それくらいのことをしてきてもおかしくない。
完全に油断していた。
「クク。お遊びは終わりだ。なりそこないよ」
ハルバードの切っ先が俺に向いた。
「死ぬがよい!」
武器を水平に構え、サーデュークはこちらに猛進してくる。
あの一撃を喰らえば俺は死ぬだろう。
だから、大人しく喰らってやるわけにはいかないね。
「残念だけど、時間稼ぎはお姫様のためだけじゃない」
俺の両手が光を放つ。
「魔力を練るってのは、時間がかかるもんでね」
その光は、二振りの炎の剣となって周囲を照らした。
「フレイムボルト・レーヴァテイン!」
振り下ろす。
圧倒的な火炎の奔流。視界を埋め尽くすほどの爆炎が、サーデュークを包み込んだ。
かつてエレノアが使っていた最上級魔法。それを二つ同時にお見舞いした。
魔法に関して未熟な俺は時間をかけないと放てないが、威力はお墨付きだ。
「これでやれなきゃ嘘だぜ……!」
全魔力を使い切ったんだ。
今の俺に取れる最善の策。まさに切り札だった。
爆炎が晴れる。
上半身が吹き飛ばされ、下半身だけになったサーデュークがそこにいた。
やったぜ。
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