第544話 黄金の戦士サーデュークじゃん

 黄金の戦士は隊列の進路上に立ち、こちらをじっと見つめている。


「止まるんだ!」


 先頭の騎士が叫ぶ。その号令で、全軍は速やかに停止した。

 そのタイミングで、コーネリアもやってくる。


「何事です!」


「敵だ」


 答えたのは俺。

 敵の姿を見たコーネリアは、額に汗を浮かべた。


「魔族……? そんなまさか」


 乾いた声。

 騎士団に緊張と恐怖が蔓延していく。

 黄金の戦士が身じろぎした。背負ったハルバードを取り、切っ先をこちらに向ける。


「我が名はサーデューク! 魔王様に仕えし四天王が一人!」


 大地を震わせるような口上だった。


「王女セレン・オーリスの命! ここで頂戴する!」


 サーデュークが纏う瘴気が、一気に膨れあがる。

 巨大かつ高密度の淀んだ魔力。今まで見たどんな瘴気よりも、純粋で邪悪な感じがする。


「確かにこれは……やばいな」


 魔王軍四天王。

 サニーが手傷を負ったというのも納得だ。

 戦闘力だけで見れば、こいつはアイリスをも凌駕するんじゃないだろうか。


「狙いは殿下か……!」


 コーネリアは腰の剣に手をかける。

 抜剣しようとした彼女を、俺は咄嗟に制した。


「待て。ここは俺がやる」


「何を……全員でかかっても、勝てるかどうかわからないというのに……!」


「だからこそさ。あんたはお姫様を逃がすんだ。俺が奴を引き付けているうちに」


「……死ぬ気ですか?」


「そうだ」


 コーネリアの顔が引き攣る。


「俺は死ぬ気でお姫様を守る。だからあんたも、死ぬ気で逃がせ」


 決死の覚悟というわけだ。


「他国の王女のために、どうしてそこまで」


「そんな問答をしてる暇ねーだろ。はやく行け」


「……わかりました。全軍! 王女殿下をお守りしろ――」


 コーネリアが振り返り、命令を飛ばしたのと同時に、先頭の騎士四人の首が飛んだ。


「――は?」


 サーデュークが神速の踏み込みで肉薄し、ハルバードの一薙ぎで四つの首を刈り取ったということに気付けたのは、俺だけだろう。

 だが、気付けただけで反応はできなかった。頭を失った騎士達が落馬し、土を鮮血で染めていく。


「うっそだろ!」


 すかさず居合斬りを放ち、サーデュークの動きを止める。俺の剣はハルバードの柄で止められ、鍔ぜり合いの体勢となった。


「ム? これはなかなか、使うではないか」


「そりゃどう、もッ!」


 発勁の要領でサーデュークを弾き飛ばす。

 数十歩ほど後方へと押し出したものの、如何せんダメージはなさそうだ。


「コーネリア! はやくしろ!」


「は、はいっ!」


 騎士達は戦慄しながらも馬車の守りを固め、来た道を戻っていく。


「王女を守る冒険者はもれなく死んだと聞いていたが……まさか貴様のような使い手が残っていたとはな」


 首をバキバキ鳴らしながら近づいてくるサーデューク。黄金の巨体はやたら威圧感がある。


「フム? その痣……貴様も我らの同胞か?」


「ンなわけねーだろ。俺は人間だ」


「なるほど。なりそこないといったところか」


 瘴気に侵されながら知性を保ったモンスターか。

 こりゃ確かに、厄介だぞ。

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