第516話 どう考えても光の剣ってつおい

「相変わらずなのね。その無鉄砲なところ」


「お前……」


 どうして俺の事を憶えているのか。転生者だからか。あるいは女神の干渉を受けたからか。

 いずれにしても、憶えているなら話は早い。


「どうして聖女なんかになってる。王国を裏切ったって聞いたが、なんのつもりだ」


「あなたにはわからないわ」


「話もせずにわからないだって?」


「ええ、そうよ」


 光の刃はまだ俺に向けられている。それは、エレノアの敵意を如実に表していた。


「残念だけど、お別れね」


 察した殺気に、俺は咄嗟に首を曲げる。

 光の剣が頬を掠めていった。なんとか初弾はかわしたが、次いで放たれた刃が俺の右腕を斬り落としていった。


「マジか……!」


 二の腕から先をごっそり持っていかれた。宙を舞った右腕は、粉々に砕け散って光の粒子と化す。

 これはやばい。

 どういう原理か知らないが、エレノアの放つ光の剣は瘴気を浄化する力をもっている。俺の体は瘴気に侵され、ほとんど変質してしまっている。あれを胴体にでも喰らったら一巻の終わりだ。


 そんなことを考える暇もなく、無数の刃が飛来する。

 俺は左手で剣を抜き、最後の力を振り絞っていくつかの刃を弾くが、満足に動かない体では長く続かない。

 まもなく俺の剣は弾き飛ばされ、太ももを光の刃が貫いた。


「ぐっ……」


 その場に膝をつく。

 俺のことを憶えているエレノアがなぜ。


「二年前のあなたは神を超越するほどの力を持っていた。けれど、今は違う。祈りは消え、神秘は失われた」


「それが、どうしたよ」


「どうして戻ってきたの? ただの人になり下がったあなたは、この世界に必要とされていないのに」


「必要だとか、必要じゃないとか……そんなの関係ねぇだろ」


 たしかに俺がいなくてもこの世界は回っていた。だけどそれは、俺の納得のいく形じゃなかった。


「俺は、俺自身がこの世界に戻ってきたかったんだよ。元の世界で記憶をなくしちまっても、その気持ちだけはずっと心の中でくすぶってた」


 確かに手段だけ見れば、アカネが呼び戻してくれたことになってる。

 でも。


「必要とされなくても、俺は望んでこの世界に戻ってきたんだ。やり残したことがあったから」


「戻ってきても苦しむだけでしょう? 元の世界なら、あなたの望むスローライフが送れたかもしれないわ」


「それでも、やるべきことをほっぽり出しちまったら、心から楽しめねぇだろ」


「馬鹿な人」


 あくまでエレノアの瞳は冷ややかだった。


「使命を背負って生きることは辛いでしょう。ロートス。あなたはここでお眠りなさい。それが女神の慈悲を受け入れるということよ」


「冗談きついぜ」


 俺は斬り落とされた右腕の断面を見る。

 血は出ていない。断面は真っ黒い石みたいに艶のある平面だ。

 人じゃなくなってるってのも、あながち間違いじゃなさそうだな。

 エレノアの周囲に光の剣が浮かび上がる。七振りの切っ先が、全て俺の心臓を狙っている。


「フラーシュ・セイフ」


 凄まじい速度で射出された剣が、俺の眼前に迫った。

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