第507話 スラムといったら
魔法学園は、二年前とそんなに雰囲気が変わっていなかった。
戦争で大きな被害を受けた王国だけど、リッバンループに遷都して復興し、元の活気を取り戻しているようだ。
まったくの元通りとはいかないが、たった二年でここまで取り戻したのはすごい。これも国王の手腕なのだろうか。どんな人なんだろうな。いつか会ってみたいわ。
それはともかく、夜になった。
俺はアデライト先生に言われた通り、学園の裏門に向かう。
「ロートスさん。こっちこっち」
塀の傍に立つ先生が小さく手招きをしていた。
「先生」
俺が近づくと、彼女はにこっと微笑む。
「準備は出来ています。行きましょう」
先生は魔法で照明を作り出し、夜の街を歩き出した。
まだ日が暮れたばかりなので、王都はまだ人気も多く活気がある。街のそこかしこに照明が炊かれ、まるでネオン街のような眩さだ。
だが、先生は大通りを逸れ、静かに路地裏へと入っていく。
そこは街の光が届かず、先生の放つ魔法の照明だけが頼みだった。
まぁ、俺は鍛えているから夜目が利く。完全なる暗闇でなければ、ある程度はっきりと物を見ることができるのだ。ちょうど、暗視ゴーグルをつけているような感じでな。
俺って非常にすごい。自分で言うのもなんだけど。
迷路のように張り巡らされた路地裏を進む。
「どこに向かうんです?」
「スラムです」
「スラム? 新しい王都にもスラムがあるんですか?」
「はい。家を失った難民が押し寄せましたからね。彼らの扱いに困った国は、専用の地区を作って彼らに与えたのです。体のいい隔離政策です」
なんとも言いがたいな。
「けれど、法の目を欺くいい隠れ蓑にはなります」
「なるほど。ならず者達を頼るってことですか?」
「いいえ。違います」
え、違うんかい。
「ふふ。法の目から逃れたいのは、なにも無法者だけじゃありません。人の上に立つ者もまた同じです」
どういうことだろう。
やがて俺達はスラムに辿り着く。なんかじめじめした通りだ。変なにおいもする。
「ここがスラム。正式名称はアイリーン地区です。暴力と薬物が蔓延する王国の闇。戦争が生んだ悲劇の場所です」
道端には浮浪者達が散見される。中には死体なんじゃないかというものもあった。
小綺麗な身なりの俺達は場違いだ。周りから視線を感じるのは気のせいじゃないだろう。
「さ、行きましょう」
アデライト先生はさっさと道を進んでいく。俺もその後を追った。
そして、大きめの建物に到着。石造りのデカい建物だ。ちょっとしたアパートくらいの大きさかな。
「ここに、手引きしてくれる方がおられます。中に入りましょう」
「はい」
そして中に入る。
建物の中はだだっ広い倉庫のような感じだった。中央には何やら大きな機械が置かれている。そしてその傍らに、一人の男が佇んでいた。
「やぁ、いらっしゃい。よく来たね」
タキシードにマント。白い仮面。
「お前は……」
帝国の使者ヒューズが、そこにいた。
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