第504話 あの店が
ぱちぱちと、拍手が鳴る。
最初は一人だけだったそれは、どんどんと周りへ波及し、すぐに割れるような響きへと変わった。
え、なんだこれ。
「よくやった! あのクソ門番を痛めつけたのか!」
「いい気味だわ! いっつも私達にいやらしい目を向けてくるから、早く死んでほしいと思っていたのよねー!」
「学園の規則がある手前、我々も手を出せなかったが、ようやく救世主が現れたな! あっぱれだ!」
どうやら貴族達は、俺を賞賛しているらしい。
この門番、どれだけ嫌われているんだよ。
「いやー、スッキリしたな。これで気分よく登校できるというものだ」
「ありがとう! 見知らぬ人よ!」
皆は口々に礼を言って登校していく。
いやいや、別にいいんだけどさ。
これだけ人がいると、ヒーモの奴を探すのも一苦労じゃないか。
なので、俺は一人の男子に声をかけて引き止める。
「あ、ちょっといいか」
「はい。なんでしょう?」
どうやら一年生のようだ。
入学したてって感じの幼いショタだった。
「ヒーモ・ダーメンズに会いに来たんだが、わかるか?」
「ダーメンズ子爵家の、ですか。あー」
なんか気まずそうにするショタ。何故だろうか。
「すみません。門番のおじさんを殴ってくれたことには感謝していますけど、あの人の話をするのはちょっと……」
「なんでだよ」
「貴族には色々あるんです。政治的ないざこざがなんやかんやと、ね。ですから僕の口からは何も話せません」
まじか。
なんか面倒なことになってるのかな。
「でも、詳しい人を紹介することはできますよ」
「なに? それはぜひ頼みたいな」
「わかりました。それじゃ、お昼休みにてぇてぇ亭に来てください。その人には、僕から言っておきます」
てぇてぇ亭。ここにもあるのか。
「わかった。すまんな」
「いえいえ。おじさんを殴ってくれたお礼ですから」
そうか。
よくわからないけど、門番のおっさんを殴っておいてよかった。
世の中、何が起きるかわからないもんだ。
「では僕はこれで」
「ああ」
そしてショタは去っていった。
俺は足元で倒れている門番のおっさんを見下ろす。
「あんた、ちょっとは生き方を改めた方がいいんじゃないか? まぁ、聞こえてないんだろうけど」
いい歳こいたおっさんが十代の若者に嫌われまくっているっていうのは、世知辛いものを感じる。
だが、それはこのおっさんの生き方に問題があるといえるのだろう。
反面教師にするのもいい。
俺も、こういうおっさんにはならないようにしないとな。
頑張ってちゃんと生きよう。
それがいいと思いますよ。
さて、それはそうと、てぇてぇ亭に行くんだったか。
昼までにはまだ時間があるが、一応場所を確認しておくか。
俺は気絶したおっさんを放置して、貴族寮を去っていった。
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