第484話 主観ってことになるね

 なんだって?


「じゃあ、あのいけすかない侯爵が来たってことか?」


『ロートス君が言っているのがイヴァール・ガウマンなら、違うと思う』


「ん?」


『彼は王都防衛線で戦死したから。長男と一緒にね』


 ええ。まじかよ。

 じゃあ。

 待てよ。俺の記憶が正しければ、イキールは次男だったはず。ヒーモが妾腹の子だとか言ってたし。


「つまり、あの軍を率いているのは」


『ガウマン侯爵家の現当主イキール・ガウマン……ってことになるね』


 まさか、ここで出てきやがるか。イキールの奴め。


「今あいつはどういう立ち位置なんだ? 話の分かりそうなやつか?」


 俺がエレノアに連れられてムッソー大将軍と会った時は、助け舟を出してくれたが。


『ガウマン侯爵はガチガチのタカ派だよ。もしかしたら、停戦に痺れを切らして無理矢理攻めこんできたって可能性もあるね』


「そこまでバカか? アイツ」


『ジェルド族に父と兄を殺されているから……』


「……そう言われると、頭では納得できない部分もあるかもな」


 けど、まだ本当に攻めてきたかはわからない。

 アイリスの言うように使者だってこともある。


「接触してみるか?」


『え?』


「何しに来たか直接聞けば話は早い」


『ご主人様らしいのです』


 サラがどこか嬉しそうに言った。


『危険がないならそれでもいいのです。砦に来る前に探りを入れてみましょう』


「よしきた」


 俺とアイリスがいれば危険なんてものはほとんどないだろう。


「行こう」


「はい」


 俺達は丘を下り、ガウマン軍の進路に姿を晒した。

 向こうも気が付いたのだろう。数騎の兵が加速して軍から抜け出し、こちらへと近づいてきた。


「何者だ! 我らに何の用か!」


 そりゃこっちの台詞なんだけどな。


「俺達は亜人連邦盟主サラの使いだ。国境侵犯をしたあんたらの意図を聞きたい」


「なに? 盟主の?」


 騎兵達は何やらコソコソ話し合っている。

 なんだろう。


「よし、我らの主君に取り次ぐ。ここで待て」


 なんか偉そうだな。不法侵入者のくせに。

 一騎が軍に戻っていく。さて、どうなることやら。


「そこのお前。もしかして人間か?」


「ん?」


 俺に言ってるのか。

 アイリスは今も耳としっぽを生やしたままだから、そういうことだろう。


「人間だよ。それがどうかしたか?」


「いや、亜人連邦の使者が人間とは、妙なこともあると思ってな」


「亜人と仲良くしているのがそんなにおかしいか?」


「いいや。家畜と心を通わせることを否定はしない。うちの実家も犬を飼っていてな、妹がえらく可愛がっている。だから、お前の気持ちもわかるよ」


「は?」


 何をほざいているんだこいつは。

 キレそうになってきたぞい。

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