第483話 隠密って苦手
敵は王国との国境方面から近づいてきている。
となると、あの万里の長城的なやつを越えてきたことになるから、やっぱり王国軍なのかな。
しっかりとそれを確かめないとな。
「アイリス。お前はどう思う?」
「メイド長も仰っていましたが、この時期に王国軍が攻めてくるとは考えにくいですわ。そんなことをすれば国際社会から大バッシングを受けてしまいますし、戦略的に悪手としか言えません」
「停戦中だもんなー」
俺達は小高い丘の稜線に隠れ、近づいてくる軍勢を観察していた。
数は大体二千くらい。大軍というわけではないが、軍事行動をするには十分すぎる戦力だ。
軽騎兵と輸送車両を中心に、機動力の高い兵科で構成されている。強襲する気満々っぽく見えるが、要塞を攻略するには向かない編成だ。
「王国からの使者という可能性もありますね」
「二千も兵隊を連れてるのに?」
「身分の高い方なのかもしれません」
「なるほど。護衛ってわけね」
そういうことなら合点が行く。
「砲撃が始まりますわ」
「おお。あれか」
そういえば、俺達も受けたな。
砦方面から、光の砲弾がいくつも飛来する。それは綺麗な放物線を描いて軍勢へと向かっていった。
そして、着弾。
ものすごい爆音と共に、爆炎と土煙が舞い上がる。
「大丈夫なのか? あれ」
「国境を侵犯した者は警告なしで砲撃する。これは条約で定められたことですわ。先方も文句は言えません」
土煙が晴れていく。
軍勢は無傷だった。彼らを包み込むように、ドーム状の障壁が展開されている。
「流石に対策はしてるか」
「あの砲撃を防げるほどのバリアを張れるとなると、同行しているのは熟練の魔法使い。やはり、身分の高い御仁が来たと考えるべきでしょう」
なんか、あれだな。
前に比べて、賢くなっている気がする。というより、人間の社会をよく理解しているというか。
そりゃそうか。ただのスライムだった時から二年以上経っている。人間として色々学んだだろう。
もちろんこれはアイリスだけじゃない。みんな色々と成長している。
元の世界で普通の学生生活をしていた俺なんかよりずっと。
まぁ俺はもともと極めて文武両道だったから別にいいけどな。そう思うことにしよう。
「ん? あれは……?」
軍勢が近づいてくると、彼らの掲げる旗が視認できるようになる。
ご丁寧に軍旗を掲げているとなると、正規の軍隊ってことかな。
「アイリス。あれ、見えるか。あの旗」
「はい。獅子の紋章が描かれていますわ」
「どこの旗だ?」
「聞いてみますわ」
アイリスはスカートの中から念話灯を取り出す。
送話。
『こちら指令室、サラです』
「アイリスですわ。接近中の軍は獅子の紋章旗を掲げています」
『獅子の紋章旗? それって』
「なんだ? どこの軍なんだよ?」
次に聞こえてきたのは、ルーチェの声。
『獅子の紋章は、ガウマン侯爵家の家紋だよ』
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