第479話 急募、かつての自分みたいな奴を倒す方法

「どうされました? いらっしゃらないのですか?」


 アイリスはハラシーフの動きを窺っているようだ。警戒しているのか?

 ハラシーフは斧を担ぎ直し、ゆっくりとアイリスに近づいていく。


「今の一撃でなんとなくわかったぞ」


「なにがですか?」


「お前の実力だ。残念だが、オレには及ばないようだ」


「あら? そう判断するには、まだ早いのではございません?」


「ふん。どうかな」


 ハラシーフが大地を蹴り、アイリスへと迫る。

 大した速度だ。だが、アイリスが反応できないほどじゃない。

 ハラシーフは怒涛の勢いで斧を振り回す。技術なんてない力任せの攻撃。

 アイリスはそれを華麗なステップで避け、隙を見てパンチを叩き込んでいる。だが効いていない。


「アイリスのパンチを喰らって平気だなんて、信じられないのです」


 サラが緊迫感のある声を出す。


「自分が使ってた時も思ってたけど、つくづくチートだな。〈妙なる祈り〉ってやつは」


 たしかに、アイリスは強い。

 単純な戦闘力だけで見るなら地上最強だろう。ハラシーフなんか目じゃないはずだ。

 だが、それはあくまで理の範疇に収まった強さだ。

 〈妙なる祈り〉を得た者は、理の外に片足を突っ込むことになる。

 たとえ半歩でも理の壁を越えた者は、強さという点において理の内にある者を置き去りにしてしまうのだ。かつての俺のように。


「こりゃ、前言撤回だな」


 俺は呟く。


「どういうこと?」


「ルーチェ。このままじゃ具合が悪い。ちょっと横槍をいれよう」


「え? でも」


「なに、手を出すわけじゃない」


 このまま決闘を続けても、よくて引き分けだ。アイリスの攻撃がハラシーフに通らない以上、勝ち目はない。


「ロートスくん。どうするの?」


「ハラシーフの祈りの内容を知れば、対策もできる。〈妙なる祈り〉は、自分が強くイメージできることしか実現しない。要はハラシーフの虚を衝けばいいわけだ」


 そういうのはアイリスは苦手だろう。強者ゆえに、絡め手を用いない。

 だが勝機を見出すならそこしかない。祈りの力が弱いから、打ち破るのはそこまで難しくないだろう。

 マーテリアが俺にやったようなことをやればいいんだ。

 とりあえず、揺さぶりをかけてみるか。


「エカイユびびってる! ヘイヘイヘイ!」


 俺は大きな声を張り上げた。


「エカイユの攻撃あたらないよ! アイリス全部避けてる! エカイユってすごいのろま!」


 心苦しいが、ここは煽るしか方法がない。

 煽ることで開ける道もある。俺はそう判断した。


「貴様ッ!」


 予想通りというべきか。ハラシーフは顔面に太い血管を浮かべて、俺を睨みつける。

 その瞬間、隙だらけのどてっ腹にアイリスの蹴りが直撃した。


「ウッ――!」


「決闘中によそ見はいけませんわ」


 そして腰を曲げたハラシーフの首筋に、後ろ回し蹴りを炸裂させる。

 爆音が響き、ハラシーフが大きくのけ反った。

 アイリスの攻撃が、はじめて効いた。

 勝機を見たり。

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