第470話 これはよくある脱出劇
オルタンシアの手を引いて、回廊を走る。
いつの間にか、俺達を追う刺客がどこからともなく現れていた。
そして、その数はどんどん増えていく。
「こっちだ! 急げ!」
ヒューズが先導してくれるが、オルタンシアのスピードに合わせていたらすぐに追い付かれてしまう。
「オルたそ! 喋るなよ。舌嚙むぞ」
「えっ?」
オルタンシアの手を引き、お姫様抱っこをする。
そして、急加速。一瞬にしてヒューズに追い付いた。
「わお。すごいね」
「まぁな」
こいつもなかなか速いが、俺の方が速い。
つまり俺の方がすごい。
イケメンより、俺の方がすごいのだ。
「しかし、いいのか? お前帝国の使者なんだろ? 俺を助けたりしたら、お前の立場が危うくなるんじゃ?」
「はは。心配してくれるのかい?」
「気になっただけだ」
「つれないなぁ。けど大丈夫。ほら、仮面かぶってるでしょ?」
「は?」
「冗談だって。正直なところ、もうジェルド族からは手を引くことになったんだ。だから、もういいのさ」
「なに?」
「詳しく話している時間はないよ。ほら、もうすぐキミの馬のところだ」
王宮の片隅にある馬舎が、遠目に見えた。
夜の王宮にはところどころに松明が焚いてある。魔導具じゃないところを見るに、まだそこまで普及はしていないのか?
「じゃあ、ここでお別れだ。僕は連中を引き付ける。上手く逃げ延びてくれよ」
「ああ。お前こそな」
「センキュー!」
その言葉を合図に、俺達は左右に分かれた。
俺はオルタンシアを抱いたまま、真っすぐフォルティスのところに向かう。
「種馬さまっ! 後ろ!」
「わかってる」
背後からいくつもの矢が飛来する。
ジャンプしてその全てを避けると、お次は雨のような戦闘魔法が飛んできた。
だが、それも全部かわす。空中で身を翻した俺を捉えたものは一つもなかった。
「ったく。オルたそに当たったらどうすんだ」
ここは一つ。反撃と洒落こむか。
建物の屋根に着地した俺は、思い切ってオルタンシアを真上に高く放り投げた。
かわいい叫び声が響く。
「ごめんな」
言いながら、石製の屋根を踏み砕き、その破片を刺客達に蹴り飛ばした。
ただの石礫だ。だが俺の膂力と技量をもってすれば、それはすごい威力と命中精度を両立した超兵器となる。
俺を追ってきた十数人の刺客は、その身に石礫を受けて一人残らず昏倒した。
そして、落ちてきたオルタンシアをぽふりと受け止める。
「大丈夫か?」
「……は、はい。たぶん」
「よし」
呆然とするオルタンシアの頭をよしよしと撫でる。そして再び駆け出した。
速度を落とさず馬舎へと駆け込むと、すぐさまリードを外してフォルティスに二人乗りをし、全速力で発進させた。
「頼むぞ、フォルティス」
激しく嘶き、フォルティスは王宮の敷地を駆け抜ける。
「いっけぇ!」
助走をつけ、十メートルはあろうかという高い城壁を飛び越える。
フォルティスすごい。普通の馬じゃこんなことはできないだろう。だがフォルティスにはできるのだ。流石だ。
そして俺達は、無事にジェルドの里から脱出したのだった。
めでたし、めでたし。
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