第471話 帰ってきたロートスマン

 夜通し走り続けて亜人連邦に入る。

 朝日が昇る頃には、防衛基地であるサラの砦に辿りついていた。


「ついたか……」


 オルタンシアはフォルティスの上で、俺に抱かれるようにして眠っている。

 砦に近づくと、頑丈そうな門が開き、中から小さな影が飛び出してきた。


「ご主人様っ!」


 サラだ。

 必死に駆け寄ってくると、息を切らせて俺を見上げた。


「おう。ただいま」


「ご無事だったんですね……!」


「この通り。ピンピンしてるわ」


「よかったぁ……ジェルド族に連れ去られた時は、どうしようって。すみません、ボクのせいで……」


「サラのせいじゃないだろ。それよか伝わってなかったか? すぐ戻るって」


「ジェルドの使者がそう言ってましたけど、でも、そんなの信じろっていう方が無理な話です」


 そりゃそうか。


「ほんと、よかったのです。ご主人様がちゃんと戻ってきてくれて」


 二年前よりちょっとだけ大きくなった胸を撫でおろすサラ。こんな時までおっぱいの大きさを気にする自分が恨めしい。けど男なら仕方ないんだよなぁ。

 と、俺はフォルティスから下りる。


「その人は?」


 俺にお姫様抱っこされて眠るオルタンシアを見て、サラが首を傾げた。


「ああ。ジェルドの里から連れてきた。目が覚めたらみんなに紹介するよ。今はひとまずこいつを寝かせられるところに」


「わかりました」


 サラは頷き、砦の中へと案内してくれる。

 オルタンシアを養護室に寝かせた後、俺は指令室に通される。

 俺だって徹夜だが、今は寝ている場合じゃない。それに今の俺なら、その気になれば一年くらいは寝ずにいられるだろう。その気になればな。


「どうぞ、ご主人様」


「ああ」


 指令室に入ると、そこにはルーチェとアイリス、そしてロロが待っていた。


「あら」


 壁際のアイリスが口元を押さえる。


「おかえりなさい。意外と早いおかえりだね。もうちょっとかかると思ってた」


 ルーチェがソファの上でにこりと微笑んだ。


「アニキ!」


 そしてロロが抱きついてくる。


「おせーよアニキ。みんな心配してたんだぜっ。いきなりいなくなっちまってよー」


「すまんすまん。あいつらを追い払うには、それが一番手っ取り早かったんだよ」


 ロロの頭をぽんぽんと撫でる。


「ほらロロ。もういいでしょ。ご主人様に冷たい水を持ってきて」


「がってんだぜ! サラのアネキ!」


 ロロは元気いっぱいに、部屋の隅にある給水器に向かう。


「うまくやってるみたいだな」


「とってもいい子なのです」


 俺が言い出したこととはいえ、まさかサラが姉貴分になる日が来るとは。


「それより、どうだった? ジェルド族は」


 ルーチェがテーブルの上の書類を片付けながら尋ねてくる。あんまり心配した様子がないのは、俺への絶大なる信頼ゆえだろう。ちょっとだけ寂しいけど。


「二年前とはイメージが違ったな。なんつーか。調子に乗ってるっつーか」


「だろうね。今やマッサ・ニャラブを支配しているのはジェルド族といっても過言じゃないし」


「彼女達がここ一年で急激に勢力を伸ばしたのは、どうしてなのでしょう?」


 アイリスがのほほんとした口調で言う。


「ああ、そうか。みんなに伝わっていないんだよな。サラは知ってるか?」


「いえ。ボクにもさっぱり」


 なるほど。

 そりゃそうか。切り札の存在をわざわざ明かすわけもない。

 帝国の使者が知っていたのは、奴らのつながりが強いせいだろう。


「ご主人様はご存じなんですか?」


「ああ。女王から教えてもらったよ」


 みんなが次の言葉を待つ。

 言いにくいけど、これは言わないわけにはいかないだろう。


「俺の娘が、ジェルドの里にいた」

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