第464話 タイミングの神
「アナベルを取り返そう。子どもってのは、やっぱりちゃんと親のもとで育つべきだ」
「でも……」
「何か心配事があるのか?」
「この国は、あの子のおかげで強くなりました。ジェルド族が国内で覇権を取れたのも、あの子あっての話です」
「ふむ」
オルタンシアなりに故郷のことを案じているのだろう。アナベルがいなくなったら、この国が落ちぶれてしまい、一族が悲しい目に遭うのではないかと。
優しいな。けど、それは甘さでもある。
「人の子を奪って得た栄光なんか、どうせ長続きしないさ。それとも、この国にいられなくなるのが辛いか?」
オルタンシアは生まれ故郷を愛していた。今もその気持ちが変わってないなら、迷うのも仕方ないか。
「いえ……この国に、もう未練はありません。自分が一番辛い時に、誰も助けてくれませんでしたから」
「そうか」
口ではこう言っているが、そう簡単に故郷を捨てることはできないだろう。
俺だって、元の世界に未練がないと言えばウソになるからな。
「あのさオルたそ。エトワールの街で言ってたよな。現地妻になりたいって」
「……はい」
「俺、あの時それもいいかもなって言ったけどさ。本心じゃ、一緒に来てほしいって思ってた。離れ離れってのは、寂しいし」
それに、あの頃とは状況も大きく変わっている。
「俺と一緒にこい、オルたそ。アナベルと一緒にだ。オルたそのことを分かってくれる奴らがいるところに行こう」
オルタンシアの腕が、俺をぎゅっと抱きしめた。
「はい……ついていきます。どこへでも、連れて行ってください……」
「ああ、任せろ」
そうと決まれば、女王に直談判しに行くか。
まあ受け入れられないとは思うが、万が一ということもある。話し合いで解決できるならそれが一番いいしな。
「飯を食っちまおう。何をするにも、腹が減ってちゃ力がでない」
「えへへ。そうですね」
お。
やっと笑ったな。
沈んでいる表情も綺麗だったが、やっぱり女の子は笑っている方がいい。
何の肉なのかよくわからない肉料理を胃に放り込む。味が濃くてうまい。
ちょうど完食したタイミングで、部屋に侍女がやってきた。
「聖母様。よろしいですか?」
ぺこりと頭を下げる小さな侍女。
「なんですか?」
「女王様がお呼びです。そちらの――」
侍女は俺を見て、
「アルバレス様も一緒に、と」
「へぇ」
なんだ。
向こうからお呼びとあっちゃ、行かないわけにはいかないな。
これは渡りに船というやつだ。
アルドリーゼが何を考えているのか、しっかり聞かせてもらうとするか。
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