第463話 奪還屋よろしく
「それからしばらくして……自分が、妊娠していることがわかったんです」
「アナベルか」
こくりと頷くオルタンシア。
「みんな喜んでくれました。ジェルド族にとって、子を孕むというのは……一人前の女になるってことですから。一族の繁栄にも、繋がりますし……でも」
「俺との子だって、信じてもらえなかった」
「はい……種馬さまは忘れられ、自分はずっと女王さまと一緒にいたことになっていました。案内人として選ばれたことも、すっかりなかったことに」
マーテリアの雑な世界修正のせいだな。
「必死に訴えたんです。本当のことを。ロートス・アルバレスというジェルド族の救世神が、自分に種付けをしてくれたんだって。種馬さまとの旅のことも、ちゃんと語りました。それなのに」
金の瞳に涙が浮かぶ。
「みんな、自分が乙女のまま神の子を孕んだって。奇跡だって……そうやって盛り上がるだけで、何もわかってくれようと……しなかったんです」
言葉に嗚咽が混じっていく。
俺はすぐさま立ち上がり、オルタンシアの震える肩を抱きしめた。
「ごめんな。俺がそばにいてやれなかったせいで」
ふるふると、オルタンシアは首を振る。
「種馬さまのせいじゃ、ありません。悪いのは、信じてくれなかった……みんなですっ」
そう言って、俺の胸でさめざめと泣いてしまう。彼女の苦悩を理解できる者は、ジェルド族にはいなかった。
ひとしきり泣いてから、オルタンシアは再び語り始める。
「アナベルが生まれると、あの子はすぐに……女王さまに、取り上げられてしまいました」
「それは、なんでなんだ?」
湧き上がる怒りを抑えつつ、俺は努めて平静な声で聞く。
「あの子が本当に神の子がどうか。それを確かめるためです。そしてあの子は確かに、神の子としてふさわしい力があった」
「なんか、政治的な判断を下してるって聞いたけど……」
「はい。まるで予知能力でもあるかのように、国にとって正しい答えを導き出してくれるのです。言葉はまだ話せませんが、是か非かの意思表示くらいは……生まれた頃からできましたから」
「なるほどな。まぁ俺の子なら、なくはないか……」
あの子は、俺が〈妙なる祈り〉を持っていた時にできた子だ。なにかしら特殊な能力を持っていてもおかしくはない。
「しかし、親から子を取り上げるとは許しちゃおけねぇな。アナベルには、会えているのか?」
「たまに……」
悄然とした表情を見るに、ほとんど会えていなさそうだ。
「取り返すか」
「えっ……?」
涙ぐんだ瞳が、俺を見上げる。
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