第443話 セクシーなのかキュートなのかどっちが好きやねん

「ちょっとすまん」


 俺はサラの首輪に触れる。

 すると何度か首輪が明滅し、留め具が外れた。


「あれっ?」


 自分の首をペタペタと触るサラ。


「外れた、んですか?」


「ああ。こんなもの、必要ないだろう」


「いや、あの。要るとか要らないとかじゃなくて、どうやって外したのか……」


 今それを教えるわけにはいかないだろう。

 俺はあえて答えなかった。


「この首輪。貰ってもいいか」


「え?」


「調べたいんだ。だめか?」


「それは、かまいませんけど」


 よし。

 これを然るべきところで調べれば、何かわかるかもしれないな。

 サラはひとしきり首を触り終えると、改めて俺を見上げる。


「基地にご案内します。どうぞ」


 ごく自然に、サラは俺の手を取って歩き出した。

 お。これはなんか、思い出すな。

 学園入学のクラス分け試験の時、サラが先導してくれたことがあったっけか。


「背、伸びたな」


「はい?」


「いや、なんでもない」


 感傷に耽るなんて俺らしくないか。

 俺達の後を、ルーチェとアイリス、遅れてロロがついてくる。

 亜人達は、何が何だかわからないといった様子で俺達を眺めていた。


 サラに手を引かれるがまま門をくぐる。

 亜人連邦の前線基地。

 ここは強固な石造りの城壁に囲まれた巨大な施設だった。

 そこかしこに砲塔が立ち、まさに軍事要塞といった様相をなしている。さっき砲撃してきたのはこれかな。となると、この砲台は魔導具の一種か。


 帝国が亜人の後ろ盾になってるってのは変わってないみたいだな。

 この亜人連邦には、いろんな国の思惑が凝縮されてるようだ。


 サラに案内されたのは、要塞の中でもひときわ大きく物々しい建物だった。

 中に入っていく。ここが司令部なのかな。

 すれ違う亜人達がみな、サラに対して最敬礼をしている。


 ふーむ。

 亜人同盟の時はお飾りな感じだったが、今は名実ともに亜人の指導者になっている。

 俺のいない間に出世したもんだ。

 建物の最奥に、見張りの立つ部屋があった。


「客人と話があります。誰も入れないように」


「盟主の御意のままに」


 見張りの亜人にそう言って、サラは指令室に足を踏み入れる。


「どうぞ、みなさん」


 俺達四人は、サラに促されぞろぞろと司令部にお邪魔した。

 ルーチェは中央のソファへ。

 アイリスはデスクの傍にあるスツールに腰をかける。

 勝手知ったるという感じだ。ここに来るのは初めてじゃないんだろうな。


「なぁサラ」


「なにか?」


「別に嫌というわけじゃないんだが、いつまで手を握ってるんだ?」


「え? あっ」


 今気付いたと言わんばかりに、サラは慌てて手を離す。


「ごめんなさい」


 頬を染めるサラは、俺の知っているサラのまんまだ。


「なんでだろう。なんだか自然に、手を。すみません」


「かまわんさ」


 サラの中に眠る想いがそうさせたのだ。

 ちょうどファルトゥールの魔力の衝動と逆の効果というわけだな。


 こほんと咳払いをして、サラはデスクに腰を落ち着けた。

 俺とロロはルーチェの隣に座る。


「さて、皆さん。本日はどのようなご用向きでお越し下さったんですか?」


 サラはあくまで盟主としての表情で、凛とした声を発した。

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