第437話 これっていわゆる追放?

「教頭。上手い口に惑わされてはいけません。予定通り、この男はここで処分いたしましょう」


 若者の一人が言う。いらんことを言うな。


「解呪法はあのお方が見つけてくださる。このようなどこの馬の骨とも知らぬ男を頼まずともよいでしょう」


「そうだな。わしとしたことが言いくるめられるところだった」


 くそが。

 こりゃ事を荒立てるしかないか。


「あーっ!」


 一触即発の雰囲気の中、部屋の外から女子の声が響いた。


「こりゃスクープだ! 学園を救ったヒーローを、呪いを受けたことを理由に教頭先生が暗殺しようとしてるって話!」


 開け放しだった扉に、お団子頭の小柄な女生徒が立っている。

 あれ、なんか見たことあるぞ。

 小柄なのにおっぱいが大きい女の子。連れている従者の女性も、見事な巨乳。

 ああ。確か同じクライメイトだった子だ。名前なんだったかな。


「スクープ! スクープだぁ! スキャンダルだーって話!」


 女生徒は手に持った魔導具でパシャパシャとこの状況を撮影している。

 これに慌てたのは教頭達だった。


「な、なんだあの小娘は! 捕まえろ! なぜ扉を閉めていなかった!」


「ええっ! 閉めたはずですよ!」


「いいから早く捕まえろ!」


 しめた。

 女生徒に気を取られた隙に、俺は教頭と若者達を打ち据えて昏倒させる。僅か一秒の出来事だった。


「えっ……すご……」


 女生徒は撮影を忘れて、俺の動きに見とれているようだった。


「先生。俺はここでお暇します」


「呪いを解く方法を探しに行かれるのですか」


「もちろん」


 俺はデスクに置いてあった包帯を腕に巻き付け、呪いの痣を隠す。


「俺は脱走したということにしておいてください」


 ここにいると先生に迷惑が掛かるからな。

 さっさと退散だ。先生が無事だったということがわかっただけで収穫はあったし。


「あのっ」


 去ろうとする俺の背中に、先生の声がかかる。


「私を、恨んでいますか?」


 不安げな声だった。


「私達はお互いに大切な存在だったのでしょう。あの手紙を見ればわかります。でも私は、あなたを忘れてしまった。何も思い出せないのです」


「大丈夫。すぐに思い出します。思い出させますよ、この俺が」


 それに先生は、ちゃんと言葉を残してくれた。


「今は思い出せなくても、先生の心はちゃんと俺の中にありますから」


 それ以上の言葉はいらないだろう。


「ロートスさんっ」


 今度こそ去る俺にかかる声。


「待っています。あなたの帰りを、ずっと」


 ああ。

 帰ってくるさ。

 きっと。

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