第436話 教頭って薄毛のイメージ

「失礼する!」


 現れたのは恰幅のいい鼻ヒゲのおっさんだった。


「教頭先生」


 アデライト先生が呟く。このおっさんが教頭か。いかにも教頭って感じのビジュアルだな。

 おっさんはずかずかと研究室に入ってくる。後ろには数人の若者を連れていた。


「貴様だな。暴走したモンスターを退治した青年というのは」


「そうだけど……」


 おっさんは俺の右腕をじろりと見る。


「呪いを受けたか。ふん」


 おっさんが手を上げると、若者達が一斉に杖を抜いた。

 なんだこれは。


「何をされるおつもりです」


 すかさずアデライト先生が彼らに立ち塞がった。


「どきたまえアデライト先生。その呪いがどんなものか、あなたも知らぬはずあるまい」


「しかし……この方は生徒を守るために戦ってくださったのですよ。それを……」


「私情を挟むな。放っておけば更なる大事が訪れるのだ」


 どういうことだ。

 この腕の痣が呪いだって? たしかに呪いっぽいけど。


「教えてくれ。これは、どういう呪いなんだ」


 俺の問いに、教頭が鼻を鳴らす。


「瘴気の刻印だ。瘴気に侵された生物に刻まれる呪い。その痣はやがて貴様の全身に広がり、理性のない怪物となって他の生物を襲う。貴様が退治したモンスターのようにな。そうなる前に殺すのだ」


「待ってください。それではあまりにも」


「弁えなさい先生。刻印を持った生物はそれ以前に比べ格段に強くなる。瘴気に侵されたモンスターを倒したこの男が、さらに強くなり我らの脅威となれば、一体誰が責任を取ると言うのだ」


「それは……」


 確かに教頭の言う通りだ。

 学園を守る立場であるならば、俺を野放しにしてはいけない。教頭の考え方は確かに冷酷かもしれないが、至極全うであるとも言えるだろう。


「わた――」


「先生。いいんだ」


 アデライト先生ならそう言うと思っていた。

 責任は私が取りますと。

 だが、そんなことをさせるわけにはいかない。


「教頭。この呪い、俺が正気を失うまでどれくらいかかる?」


「なに? そんなことを聞いてどうするつもりだ」


「決まってる。呪いを解く方法を探すんだよ」


 このまま殺されたくはないし、ことを荒立てたくもない。


「わしは知らぬ。アデライト先生ならご存じか」


「……今までの研究によれば、およそ百日ほどかと」


「なんと。たった百日しかないのか」


「違うぞ。百日もある」


 おののく教頭に、俺は言ってやった。


「百日あればこの呪いを解く方法も見つかる」


「馬鹿な。何を根拠に」


「俺が見つけると決めたからだ」


「話にならん。百日待てと言うつもりか? それならば貴様を実験体にして研究を進めた方がいいだろう」


「それもアリだな。だが、俺を放っておけば解呪方法が待ってるだけで見つかるんだぞ? そっちの方がお得じゃないか?」


「む?」


 教頭が腕を組む。それもそうかと、考えてくれればいいんだが。

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