第397話 地下に隠すのがセオリー

「種馬さま。あそこです」


 オルタンシアの誘導に従い、遺跡の中央付近に着地する。

 このあたりは過去、建物が密集していたのだろう。まだ背の高い建物の残骸が比較的綺麗な状態で立っている。

 金属の骨組みと、木材や石材を用いた建築物。


「こりゃ、下手すると今より文明が進んでたんじゃないか?」


「……そうなんですか?」


「わからんけど。パッと見そう感じる」


 それは俺が転生者だからそう思うのか。進んだ文明を知っているからこその知見かもしれない。

 まぁわからないけどな。文明の進み方にもベクトルの違いはあるだろうし。


 俺はオルタンシアに手を引かれ、遺跡群を進んでいく。

 辿り着いたのは、こじんまりとした建物と朽ちた鉄扉だった。


「扉……? こんなところにか」


「この真上に、光が浮かんでいるんです。だから、ここで合ってると思うんですけど……」


 オルタンシアは頭上を見上げている。

 ふむ。


「この建物。あれだな。ここだけ劣化していないな」


「あ、言われてみれば」


「神的な力が働いていると見た。早速入ってみるか」


 鉄扉に手をかける。

 その瞬間。


『開けちゃいかんぞ』


 神の声が響いた。


「種馬さま。開けたらだめって……」


「いや、開ける。開けたくて仕方ねぇ」


 というわけで、俺は鉄扉を蹴り破った。

 分厚く頑丈な鉄扉が木っ端微塵となって吹き飛ぶ。

 神の声は聞こえない。


「よし」


 建物の中を覗くと、すぐに下り階段になっていた。


「地下か」


「暗いですね」


「まかせろ」


 クソスキル『ちょっとした光』を使う。俺に残された数少ないスキルだ。

 〈妙なる祈り〉を使えばもっと明るい光を生み出すことは簡単だが、こういう時にクソスキルを使っておかないと他に使う場面がないからな。


「降りてみるか。気をつけろ、オルたそ」


「はい……」


 長い螺旋階段だった。

 金属で作られており、歩くたびにところどころ軋む音がする。怖くはないが、ヒヤヒヤするな。

 事実、オルタンシアは不安そうだった。


「大丈夫か?」


「はい。これくらいは」


「無理するな」


 今度は俺がオルタンシアの手を引く。ひんやりとした柔らかい感触が心地よかった。

 そしてついに、階段が終わる。


 そこには、またもや鉄扉。面倒なので蹴り破る。

 その先は、大きな空間が広がっていた。


「種馬さま……これは……」


「ああ……間違いないな」


 広間の中央に、大きなクリスタルが浮いている。

 これは見覚えがある。サラが封じられていたクリスタルだ。いわゆる神の魔力の結晶。

 そのクリスタルの中には、一人の美女が眠っている。白い衣を纏ったすっごい巨乳のパツキン美女だった。


「マーテリアだな。十中八九」


 クリスタルを貫くように八本の鎖が伸び、マーテリアを縛り付けている。その鎖は、壁に設置された色とりどりのクリスタルに繋がれている。


「なるほどな。〈八つの鍵〉はこの鎖を解くために必要なのか」


「なんだか……痛々しいですね」


 オルタンシアが眉尻を下げてマーテリアを見上げる。

 そして、再び声が響く。

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